「ここは…？」
「いわゆる武器屋ってとこ」
「なるほど。ここで装備を整えてフィールドに出る、というわけだね？」
ゲームに慣れてきている啓児はさすがに話が早い。
「でもその割には…」
ぐるりと辺りを見回す。
「ずいぶんとさびれているね？」
いつものナンタイコウの武器屋、リョンカの店ならいつも誰かしらいるものである。店主のリョンカはもちろん、武器のメンテを頼みに来る連中やらヤッシのような愛好家？まで。実際、この間来た時にはあふれんばかりの人、人、人で…大変だったのだ。
それが…目の前のリョンカの店には誰もいない。武器も並んでいる。常に手入れの行き届いているそれらにはホコリ一つなく、ぴしっと揃えてあって店主の几帳面さがうかがえる。だが…誰み、いない。
「…ううん。さびれてなんか、いない」
誰もいないんじゃなくて見えてないだけ。本当は人はいるのだけど、見えてないだけ。
「ね？ そうでしょ？ イント？」
『…あー…多分なんかそれっぽい期待してるんでしょうけど…残念ながらミライさんの期待通りではないですね。ここは今、無人の店になってます。実は入り口にはカギがかっているんですが…』
「え」
『…外はみなさんフツーに歩いてますし。どうにも店主の方が外出でもしているようですね…』
…うわー…なんかハズカシ
「だ、大丈夫、気にしないで福田さん」
『…そうですよ。建設的な話をしましょう。うん。何か目的があってここへ来たんですよね？』
「そう。えっとね」
奥へと進んでみる。…留守だ、ということなのでなんだか悪いことをしているような気になってしまうけども…。
「…こっち」
地下へ通じるあの階段である。
啓児には何もない、ごくごく普通の階段に見えているはず。あのリョンカのことだからゴミ一つ落ちていない、清潔そうな階段…。
「…あれ？」
「どうかしたのかい…？」
「あのね。えーと…なんて言ったらいいか…あのうねうねと言うか根っこみたいなのが…ない？」
あの禍々しいまでに張り巡らされていた根っこが、なくなっている…？
『…あー、なるほど。そういうことですか。ミライさんがここへ我々を案内した、というのはこういうことですか…』
とん、と音もたてずに未来の肩から降りる。
『…ほほう…これはこれは。うーむ、たしかに。ほうほう…？』
座り込んで両の前脚で、ちょいちょい、ちょいちょい、と虚空をつつく。
「やっぱりあるんだ。アレ」
『…アレ、という呼称がミライさんのソレと一致するかどうかは分かりませんが、まあ、恐らくコレのことでしょう。ただし残念ながら今の自分ではコレを具現化することはちょっと難しいようです。本体なら造作もないことなのですが…』
「ううん。ありがと。道案内だけしてくれればいいの。コレの続くその先に、多分何かがあるはず…」
…シノノメ？
いつの間にか腰に帯びているあの幅広の短剣。シノノメがこの沈黙しかない世界で…ひときわ大きく輝く。色も音もある、しかし誰も人が見当たらないこの世界で…大きな大きな輝きを放ち始める。
「これは…そうだ、これが胸アツな展開、というやつだね？ 三輪クンが教えてくれた…！」
腕を組んでうんうん、と大きくうなずく啓児。
「これが何かの大きなカギになって、これから大きなことが起きるんだね！ それは…楽しみだ！」
…何教えてくれちゃってんだ三輪団員…
とか思ってしまうのだが…。
…そう、これが大きなカギになる…はず、多分、そう…だよね？
