「ともかく」
今ここにいるのは未来と啓児（と、なんか中途半端？なイント）だけなのだ。三輪団員も…他の誰もいない。
「奥へ進むよ…！」
未来の目にはよくありそうなフツーの半地下の部屋に見える。シノノメを作ってもらって、その時に試してもらった、あの時とどこも変わらない。明り取りの窓が細長く、一面の…それもごくごく上の方の天井に近い辺りだけから外の陽光が入り込む部屋。…実際には実はかなり大きな部屋だったのだ、ということに今さらになって気づく。考えてみれば大剣を振り回してみたりもする部屋なのだ。天井も高くて広さもそれこそ武器を思う存分振り回せるほどに広い…。
…あの分霊のヒトたちはいないんだ…
自分に見えていないだけかも知れない、と思ったのだがイントはじっと前を見据えたまま。何かあちこちを気にしている様子がない。あれだけはしゃいで騒いでいた彼らだったのだ。もし、未来たちには見えないだけでここにいる、ということならイントが何らか反応するはずなのだが…？
…それとも、そういうことじゃないってこと…？
…ん？
急に、降りる階段の…その段への一歩一歩が重くなってきた気がする。肩から頭から腰から上から重しをかけられ、歩くのも難しくなってきたような…。
『…始まりましたね…』
「どゆ…こと…？」
涼し気な顔のイントが色んな意味で憎らしい。
『…敵認定された、ってことですよ。…でしょう？ 啓児サン？』
ふう…と大きな息を吐く啓児。そして…かすかに上を向きながら息を吸い込む。
「ああ。こういうことか…ヤバいね、これは」
『…ヤバいなんて言葉、どこで仕入れたんです？…』
「三輪君だよ。彼は本当に色んなことを教えてくれた。敵を倒しきることだけが正義じゃない、自分だけの圧倒的な力で全部を蹂躙し尽すのもまた違うんだろう、って」
前を歩いている未来が振り向いてこっちを見ている。その心配そうな顔を見て…。
「守るべきモノ、それをきちっと守りきってそして…笑う。それが…ヤバい男の本性なんだ、ってね」
「福田さん！」
未来の肩を掴んで…自分の後ろへ、と。
「僕が先に行く。僕の後に続いて」
「でも…」
未来の全身にかかってきている重さはかなりのもの。正直、一歩進むのにもかなりの力が必要なくらい。
「大丈夫だ、僕に…任せて。僕は…少なくとも君よりは…固い…」
両腕を前に、前傾姿勢よりもやや前に傾いた体勢で…一歩一歩、また一歩進む。恐らく未来にかかっている上からの圧力、それと同等なものが啓児にもかかっているはずなのだけど…それは…。
「君が…君は…なんとかできるんだろう？ 僕は…僕は、こんなことしかできない。だから…僕は…盾になる。君を守る盾になる。だから…君は…君ができることを…するんだ！」
…そうだ
イントが見えている、ということはこの世界にはアレ…あの根っこだかなんだか禍々しいアレが存在しているはずなのだ。ただし未来たちがややイレギュラーな状態でここに入ってしまったため…それが見えていない、ということになるのだろうか…？
「…イント」
『…はい？』
「…アレってさ、ここにいるんだよね？」
『…未来サンの言う、アレ、が、ソレを指すなら…まあ、そこにいますね。何と言いますか…よくぞここまで育ったなあ、とか、もう十分だろ、とかそんなとこが正直な感想なんですが…』
…じゃあ、わたしは…！
…あんたを見てやる。絶対見てやる。そして…そして、七咲くんにここまでやらせて…なんて言うか…許さないんだから…！
