…でも、どうしよう…
相手が見えない、見えないのに…肩にも頭にも重圧がかかり続けている。鉄アレイだとかそんな風な重しがこれでもか、これでもか…と。
「これは…なかなかに…激アツだね…」
ちら、と振り返った啓児が、ちら、と笑みを浮かべたような気がする。が、これもよく見えない。
「でも…なんとか…力ずくでも…！」
…力ずく？
そうだ。…くすしさんやこのみさん、それに…ゲンゾーさんはなんて言ってた？ 何を見せてくれた？ 旅人は今いる世界に勝たないと自分の思い通りの力は使えない。それは綱引きだか引っ張りあいっこみたいに力関係がすでに決まってしまって、それに従え…ってこと？
…違う。だったら
あの時の、ゲンゾーさんの小部屋は何？ あっちの世界は明らかに強い。強すぎる。だけどゲンゾーさんは（恐らくは陽子さんの力も借りて）あそこにあれだけの部屋を作ることができた。不完全でも自分の空間…世界を作ることができていた。
…じゃあ、じゃあ…わたしだって…！
「…イント」
『…はい？』
「イントはしっかりアレ見てて。どっちにいるか、わたしには分からないから…」
…まだ、分からない
『…分かりました。自分の目線の先にアレはいますよ…』
自分の肩の上でイントは、じっと彼方の一点を見据える。
『…見逃さないでくださいね…なかなかにヤッカイですね、あれは…』
「うん。じゃあ…七咲くん、いくよ…！」
啓児の肩の上に手を置く。軽く肩が震えた、ような気がする。でもそれは…武者震いってやつだ、そうだ、七咲くんなら…そうしてくれる。だって、七咲くんなんだもん…。
そして。目を閉じる。
…とにかく曲げることだけ、考える…！ この世界全部には勝てないかも知れない。だけど、この一点、今わたしたちにのしかかってきているこの重さ、この一点にだけは少しでも抗って…！
…曲げる。いや…かわす…いや…何だろ？
真っ正面からあんなのにぶち当たったたらひとたまりもないことは未来にも分かる。だから…曲げる。曲げる？ いや、なんか…違う、こっちに向かってきてるなんかイヤな力を…なんかかんとかして…。
「いなす、んだ。福田さん」
「…いなす？」
「そう。三輪君が教えてくれた。力のない魔法戦士は相手の力をいなして流すことを知っている。それは重厚な戦士が受け止めて反撃するのでもない、もっと力のない魔法職が魔力でかわすのでもないんだ…ぐ、ぐ…」
全身にかかってくる重さが、もっと、強くなる…。
「元来は僕らにそういう力はないはずなんだ。福田さん。全然ないんだ。でも、なくても、なんとか、なってくる。それは…君が…一番よく知っている方法の…はず」
「僕らの思いは、思いや願いだけはどんなことがあっても自由なんだよ、福田さん」
「肉体の力や能力なんかどうでもいいんだ。君の…いや、僕や君の思い、願いは無限だ。無限の中にあるんならどんな制限も受けやしない。いや、受け付けるはずもない。だってさ…ココに」
振り向いて…自分の頭を親指で指す。その顔は…。
「あるのは紛れもない自分自身の思考だ。宇宙の自由自在だ。なんで…誰かに邪魔される必要があるんだい？ 君は…」
「何を思ってもいいんだ。何を考えても…いいんだよっ！」
瞬間。時が停まったような気がした。
あ。そうか。そう…なんだよね。わたしは…
わたしは、ここに、いる。そして…わたしは…
