…あれ…？
先ほどから執拗？に絡みついてきた腕。未来と、そして啓児の手首に絡んでいたもう一本も。それらは二本とも、まるで槍か何かのように未来の腹に突き刺さってきた。
…でも…
真下から突き上げてくるような挙動。一瞬だけの出来事なのだろう、実際は。しかし未来にとってはとても長い時間のように感じる。
…痛くは…ない？
「福田さん！」
掴んでいたはずの腕が、手首からするりと抜ける。そして
『…挙動が変わりましたね…』
「イント？」
未来の肩から啓児の肩へ、とイントは軽々と跳び移る。
『…さっきまでの引きずり込もうとする動きじゃないですね。何か、こう…』
未来に突き刺さったまま、上へ上へとその身体持ち上げていく。
『…上へ、運んでる…？ 何のために…？』
所詮はリョンカの店の中である。いくら大きめの部屋と言ってもそこまで天井も高くない（そもそも広さもそこまで広くない）。すぐに天井にぶち当たって…と思ったのだが、啓児の目にもかすかに揺らぎ？のようなものが見えた後、天井を通り抜けてさらに上へ上へ、と未来の身体は運ばれていく。
「すり抜けた？」
『…いえ。町しか創れなかった不完全な世界ですよ？ 空にまで手が回ってたとは到底思えません。それっぽい情景だけ置いといた、といったところでしょう…』
「でも…」
自分の愛機はそこにぴっちりハマったままなのだ。もしこれが使えれば難なく後を追えるのだけど…。
『お待たせオーパス。こっちも準備ができた、受け取ってくれ…お姫様の乗り物だ、丁重に扱うんだよ？』
再び床にすき間ができる。今回のソレは前回ほどには大きくはなく、しかし確実に割れ目となって…やはり何かが最初は液体のように、しかしやがてしっかりとした形となってその場に出現する。
『…こちら登録番号FHRIUB-W-8975541ヒオウギ。こちら登録番号FHRIUB-W-8975541ヒオウギ。ミライ？ どこ？ 久しぶりですです…って、あれ？』
「初等機ハイルインド？ なんでここに…』
未来がバン・ハンドルに渡った時に乗った小型の二人乗りの機体である。ストラシオスは基本一人乗りだが、こちらは練習機でもあるので二人乗れるようになっている。
濃い緑色の小型のバイク…といったところ。
『ミライ？ おっかしーな…』
「自分は認識番号4903867451038、オーパス。登録番号FHRIUB-W-8975541ヒオウギ、ミライとは…福田未来さんのことかい？」
『あ。認識番号4903867451038オーパス、こちら登録番号FHRIUB-W-8975541ヒオウギですです。ミライとは、はい、多分その方ですです。今はどちらに？』
それぞれの担当端末は通常はヘッドセットのような装置を装着するのだが。そういうものが見当たらないところを見ると搭乗機にデータとして乗せている、とかそういうところなのだろうか。
『…その方なら…』
イントが右前脚ではるか上を指して見せる。その根本？には二本の…腕、ではなく槍がそそり立っている。
『…今はどの辺でしょうねえ…』
『了解したです、なんだかよく見えないヒト。ではではミライを追っかけるですですオーパスさん』
唸り声のような音を軽く立て始める…ハイルインド。
『一応緊急時ということで、ステアラーはこちらが勤めますです。ハイルインドには…もちろん搭乗できますよね？ オーパスさん？』
「できるも何も」
小さな震動を続ける機体を、そっと撫でる。
「僕の時とはちょっと機体が違うけれど、僕もこのハイルインドで散々訓練したんだ。忘れるわけは…ない。何ならガンナーだけじゃなくてステアラーも僕がやろう」
と、ステアラー用の前席に飛び乗ろうとしたのだが…。
『…身体が違う、ということを認識しましょうよ…』
そもそもが小型の動物用、みたいなものなのだ。砲弾形のキャノピーに体丸めてなんとか収まるような状態。
「…うん」
『…仕方ないですね。今の自分は助言しかできません。いいですか？ そこにこの機体を召喚した穴がまだ残ってます。そこへ…そう、手でも何でも突っ込んで。はい、それでイメージすればいいんです。リンクが残ってる現状ならあなた程度の力でも流用はしやすいでしょう。そう、それでいいです…』
『わあ、すごいですねえなんだかよく聞こえないヒト。カタチが変わったです…』
