自分を二度も貫いた槍のような『何か』が今ははっきり見える。節くれだった枯れ枝のような、それでも刃となって尖ってはいる、切っ先。禍々しくも見える、『何か』だけど、それからは大きな意思は感じ取れない。
ソレらをしっかりと両手で掴む。まずは右手で切っ先を上へと押し戻す。お腹を叩くように背中側へと押しやって…今度は身体をひねりながら左手を払いつつ自分の身体からソレを引き抜いていく。痛みはない。ただ少しくすぐったいような感覚があるだけ。
…こんなのに負けるわけない。わたしは…負けない。ここは…そこまで完全でも完璧な世界でもない…！
しかしソレはまだ未来にまとわりつこうしているのか、触手のような形態となって無数の枝を伸ばし始める。すぐに網のような籠のようなカタチとなって全体を覆うよう迫ってくる。それらを何度も何度も振り払い打ち払う。
…ここに縫い留める気？ …させない
左手で縄のようでも枝のようでもある『何か』の一部を掴み、そして、右手に…シノノメを出現させる。それはすぐに現れた、のだけど…これじゃあ…。
…これじゃ…足りない
創る創る創る創る。この右手に新しい…刃を…創る。
『…おや…？』
ふ、と「上」を見上げるイント。
『…ようやくご帰還ですか、やれやれ…』
イメージとしては、天井から真っ逆さまに部屋に落ちてきて、埃やら何やら撒き散らしながら、ちょっとした沈黙。それでもぐいっと身体を持ち上げながら
『ただいま。どう？ 調子は？』
と、真記がよく話してるアクション映画のヒロインみたいに（本当は痛いんだけど我慢しながら）にこやかに、やりたかったのだけど。
…実際はなんだかよく分からないモノが…自分の身体から外したはずなのに…またぞろ未来の体にまとわりついてきていて、そんなのに包まれてんだか捕まってるんだかよく分からない中、かろうじて頭を上にしたまま叩き落されたような印象だったりする。そんな状況で余裕なんかあるはずもない。正直いっぱいいっぱい。
「…ただいま」
『…お帰りなさい。ずいぶんと遅いお帰りですねえ…あなたもカッコつけですか？ もったいつけですか？』
イントが文字通り音もなく肩の上に跳び乗ってくる。
「何のこと？ …別にいいや、何でも。…イント、手伝って。あいつを…どうにかする、本体を叩こう」
『…ほう？』
「どしたの？」
『…いや、何でもありません。なるほど、なるほど』
「変なイント。ホントどしたの？」
「福田さん？」
言われて振り向いたその先には…
小さなバイク？のキャノピー？に押し込まれたようなペンギンが一羽。
『あーーーー！ ミライですです！ こちら登録番号FHRIUB-W-8975541ヒオウギですです！ 会いたかったですー！ ミライー！」
「…ヒオウギ？」
『認識番号49057642525ガーフと登録番号XUBWOI-M-123678タンブルによってこっちに飛ばされましたですです。認識番号4903867451038オーパスと一緒に…』
声はすれども姿は見えない。たしか前の時はインカムか何かだったんだけどなー…とバイク？に近寄ってみる。あ、そうだ、コレ、あの時に乗ったあの時のアレとほぼ同じものなんじゃ…
「え。ホントにヒオウギ？」
『ですです。久しぶりです元気してましたかです！ あ、ここに認識番号4903867451038オーパスが、あのなんだかよく感じ取れないヒトに…』
「…福田さん？」
「あ。やっぱり…七咲くんだったんだ？ うん、やっぱりかわいいね、その姿」
一瞬、辺りを見回した啓児だったのだが。
「…僕のことかい？」
「うん」
「福田さん、君は…いや、何でもない」
現在の大きさではさすがに未来はハイルインドに乗ることはできない。しかも木の枝だか蔦だかが常にまとわりついてきて正直鬱陶しい。何度も何度も振り払っても…細かい蔓は絡んでくるしばきばきと音を立てながら枝が留まることなく伸びてくる。
「まったく…もう…」
「福田さん君は」
ペンギンは黒い瞳で真っ直ぐ見上げてくる。
「取り戻したんだね、全部？」
「以前からどこか何かおかしいと思っていたんだ。君は…どこか、そう、身体とか心とかのどこか一部を失っている、って。でも…もう…大丈夫なのかい？」
「そう。うん。もう…」
…そうだ。私は…
「だいじょぶ！ 行こう！ 七咲くん！」
