そんなカルス社のチーム・フランカーとひとしきりルークに突っ込みを入れまくっていたマズルカだったのだが。
こういう「私的なおしゃべり」通信というのはこういう風にすることがない時によく行なわれる。が…ケリーが貨物チェックだから、とホープフルの二人がまず抜けてしまう。さらにカルスの底抜けに明るいミヒャエルとなかなかに含蓄のある言葉を吐くセラ、そして基本的に無口だが笑顔は絶やさないアリのチーム・フランカーの三人も機体の定期チェックで抜けてしまった。
盛大なお祭りの後の異様な静けさ。仕事の合間なのだし、お互いの時間が合わなければこんなことはできない。三つの相互回線が同時重なってみんなでおしゃべり、なんてのは正にお祭り状態なのである。めったにあることではないのである。
まあ、こういう楽しいおしゃべりが、ふ、と終わってしまうのは毎度毎度のことなので、慣れているはずなのだが…。
「あー…ヒマだ」
ふううう…と大きく息を吐きながらコンソールに突っ伏してしまうマズルカ。メインモニタはまだまだそれなりに忙しそうだ。が、さっきまでホープフル11号の二人と、カルス社のチーム・フランカーがそれぞれにぎやかに映っていた左下のサブモニタは、完全に沈黙してしまってから久しい。
タイニィビート号だって機体チェックや貨物チェックはあるのである。おしゃべりができなくなって、時間も時間だから…と、のたのたとそういう「お仕事」をやり終えた彼女だったのだが。
「ねーヒマだ」
ちょい、とコンソールにくっついたままのポルカを突っつく。
「なんかない？ ねー…」
ちょん。ここのところポルカはずっと黙ったままである。最初にホープフルの連中とちょっとしゃべったっきり。…ふと、マズルカはポルカがカルスのチーム・フランカー相手にはほとんどしゃべっていなかったのを思い出した。
「…なんかあった？」
声に不安が少々混じる。おしゃべりというほどでもないが、ポルカはしゃべる時はしゃべる。それがずっと黙ったまま、というのもおかしいし、不安にもなる。
『マズルカ。どうにもおかしい点がある…』
「何よ、どうにかなっちゃったのかと思ったじゃない」
ホ、とした表情。だが…
『私は問題ない。問題なのはこの船の方だ』
「…何かヤバいってこと？」
『ヤバいかどうかは分からん。が…積載重量が増えているのだ。若干、というレベルなのだがな』
今回の積荷はいつものようにジルバがお仕事回線で受けて、いつものように軌道ステーションで荷を預かったものだった。相手は普通に商社の担当者だったし、特に急ぎとかそういうものでもない。ただ、第二惑星の軌道ステーションまで…というのはここのところではなかなかない依頼だったので、マズルカもよく記憶しているわけである。
惑星の軌道ステーション上で、とか、第一惑星の軌道ステーションへ、とか。そういういわゆる「近場」へならそれなりに依頼もあるのだが、こういう小型の運搬船ではなかなか第二衛星の軌道ステーションへ…という依頼はない。先ほどのおしゃべり通信だって行く先が同じ連中と話すことが多くなっていくものなのだが、第一衛星の軌道ステーションが行く先だったら、もっと色んな連中としゃべれるはずなのである。
「…重量が増えてる…？」
もちろん離陸前にチェックは行っているが、直前のは簡易チェックである。申請の関係上、入港前に徹底的なチェックを行うことが多い。そして…それよりも何よりも、もっと気になることがある。
『当然この重量分の物体は入港時に申請してはいない』
「てことは…ベルファの検査に引っかかってるはずだ、てことね」
『そういうことだ。そうでないとおかしい』
ミメットの行う検査はもちろん目視でやってるわけではない。本体と連動していて正確かつ精密な機器でやっている。だから、若干のレベルでも申請の際の数値と違っていれば何らかのアクションがあったはずである。しかしベルファは何も言っていなかった。性質と性格上、黙っていたとは思えない。
「…どんなので、どこにあるか分かる？ その重量物」
『それがな…』
ちょっと、言いよどむ。
「何よ」
『どうやら密航者のようなのだ』
