と、本来はとてもとても重要な案件なのだが、なんだかみみっちくも見えてしまうことをマズルカが考えているとはエイブラもポルカも知らないのではないだろうか。
『なかなかに有能なようだ、この娘は』
どうもマズルカが起きてくる前に二人？で色々やっていたらしい。無意味にない胸を反らしたりしているエイブラ。ただし天井に足を向けてたままで、マズルカから見ると逆さまになっている。そのためかどこかこっけいでもある。
『電脳系の扱いが特に突出しているが、船体保持の技術系にもなかなかの技量を持っている。…駆動部ブロック308の3号冷却装置。知っているだろう？』
「ああ…あのいつもきちんと動いてくんないやつね」
マズルカの頭の中での機械や装置の分類はこんなものである。「きちんと動く」「きちんと動いてくれない」
そっちの専門家でもない、普通に船体の操縦くらいしかまともにできない彼女だから、まあ、こんなものだろうとは思うのだが。
『電気流量の設定がいつも微妙で冷却液が不足することがままあったのだが…完璧と言っていい設定をしてくれた。外注の業者でもなかなかこうはいかんだろう』
「え？ ポルカ様？ それほんとですか？」
…いつの間にか様で呼んでやがるよ…。
そんなマズルカのぼやきは当然耳に入っていないだろう。いつの間にか床の上にひざまずいて、両手を組んで目をキラキラさせてみせたりしているエイブラ。
『うむ。私はうそは言わない』
と…通信機が着信を知らせるアラームを鳴らしてくる。
「あれ…？ こんな時間に…？ ホープフルってまだメンテ時間の最中なんじゃ…？」
例のルークとケリーが乗っているホープフル11号から、らしい。しかしおしゃべり通信にしては時間が早すぎるようなのだが…。とりあえず回線をオンにしてみる。
『ちょ、ちょっと、マジー？ ポルカ？ 一体どうなってんの？ 何があったの？ ねえ、ちょっと、応答してよ、ねえ？』
慌てきったケリーの声が流れ出てきたのである。いつもなら動画で送っていいかどうか尋ねてくるのにそれすらなく、いきなり共用メインモニタのど真ん中には彼女の吊りあがった眉も勇ましい顔。そして、後ろでおろおろしているルークの太った姿が何度も横切っては消えていく。完全にあたふたしているようだ。
「え、あー…ケリー？」
『マジー？ マジーなのね…良かった…まだ生きてたのね…てことは！』
前にも述べたがこういう場合モニタは双方向で通信できる。もし、ここから惑星上に通信するならそれなりのタイムラグを覚悟しないといけないが、タイニィビート号とホープフル11号の間の距離はそこまで広くはない。
『そこのあなた！ あなたが密航者の宇宙人ね？』
だからほとんどタイムラグなしで通信ができる。どっちかの宇宙機にお互いの距離を空けるようなことが起きなければそれが変わることはないのだが…
「ワ・れ・ワ・レ・わ・ウ・ちゅー・ジ…」
「ベタなネタをかますなあっ！」
マズルカがエイブラの後ろアタマ、思い切りはたいてエイブラがコンソールに突っ込み、その反作用をモロにくらったマズルカがコクピットの天井まで吹っ飛んでアタマぶつけてうーうーうなっている映像はリアルタイムでホープフル11号にも中継されたのであった。
「あ〜ノド痛っ」
ややいがらっぽい声のエイブラ。どこで覚えてきたのか喉を軽く叩きながら声を出して『ワ・れ・ワ・れ・わ…』とかそんなネタを披露したのである。そこへマズルカが突っ込みを入れたものだから頭と喉をぶつけてしまったのである。
なお…この手のネタは非常に危険である。無重量空間で試す場合には周囲の安全を十二分に確認することをお勧めしたい。突っ込みも込めた力と同じ分だけ自分にも返ってくる、ということをやはり十二分に留意されたい。どこかの誰かさんは慣れて？いるのかコブ一つだけで済んだようだが、場合によっては大怪我もあり得る。命がけの行為となってしまうのである。もちろん、突っ込まれた方もタダでは済まない。エイブラは直前で受け身みたいなことをやったので（つまりは同程度の力を正反対に入力してやればよい。この場合は手を前に出してコンソールをつかむ…予定だったのがうまくいかなかったようだ）この程度で済んだが、こちらも場合によっては命にかかわる大惨事となる恐れは十分にある。気をつけたいものではある。
「ったく。…じっとしてなさいって」
エイブラの肩をつかんでメインモニタ前に立たせてやる。
「これが密航者なのよ。…ホントに宇宙人かも知んない」
『マジー…あなた…』
「驚くのは分かるわ…あたしだってまだ受け入れてないもん」
『…いつの間に産んだの？』
「お前もかあ！」
