「それよりもあんたよ…一体何者なの？」
「いや、まあ、その」
「いいかげん話してちょうだいよ。どの道しばらくはこのままうちの船に乗ってるしかないんだから。…こうなったら、もう追い出すわけにもいかないでしょ？」
「……」
と、今度はさっきのホープフルとは違うメロディの着信音が。カルスからの通信である。これまでホープフルの二人だけが映っていたメインモニタ。そこが分割されてカルスのチーム・フランカーの面々が映るようになるのは先ほどと同様である。こんな風に「三者鼎談」が適うタイミングというのは滅多にないのではあるが…今回のような一種の非常事態になればこうやって皆で話せるようになる、というのは皮肉と言えば皮肉である。
ヒモごと首根っこひっつかんでたエイブラを、ぽん、と操縦士席に放る。マズルカはマズルカで機長席でモニタに向かう。
「あ…来たか。やっぱりね…」
割り当てられたメインモニタには小柄で動きの速そうな男性とやはり小柄できゃしゃな女性が一人。そしてその後ろに大柄な男性がのっそりと映っている。チーム・フランカーの三人である。
ジルバが特信送ってるからこっちに連絡があるのは当然、と言えば当然。むしろなんで今まで通信して来なかったのか、逆にそっちの方が気になるくらいである。
「あーい、こちらタイニィビート。マズルカでっす」
『おっすミヒャエルでっす。…おお、なんだ元気そうじゃねえか。まあ、落ち込んだお前なんかおいらでも見たくもねえけどな、へっへっへ』
「悪かったわね」
『わたしからジルバに確認の連絡してたの。時間かかっちゃってごめんなさい。でも、情報は必ずウラ取らないといけないものね』
「…で、あいつ何て言ってたの？ セラ？」
『先にタイニィビートに連絡しとけば良かったかなって。うちとホープフルに先に連絡しちゃったからそっちが混乱するかもって』
「じゅーぶんに混乱してるけどなー…」
『自分は心配だったが…元気そうで何よりだ』
「ん。ありがと、アリ。あんたくらいだわ…まともな反応示してくれるのって」
『おいらも心配してたんだぜい？ ほらほら何かねぎらいの言葉が欲しいねえ』
『ふむ。じゃあ、俺からなんか送ってやろうか？ こないだのカードの貸しもあるしな』
『おいおいルークさんよお…「スペース・ステーション6 宇宙細腕繁盛記」のアレクサンダーのセリフを素で間違えるようなやつに、ねえ…何かもらっても嬉しくないねえ〜？』
『あ、あれは、初めて見たやつだぞ？ お前みたいなマニアじゃないんだ、俺は』
『ルークさん、あんまり相手にしない方がいいですよ。ミヒャエルったらこんなことくらいしか知らないんですから』
「何も知らないのよりゃマシだけどね…」
『マジー…あなたも色々知っといた方がいいんじゃない？ こないだだってメンテの最中に大騒ぎするし』
『そうだな。あれは最悪だった。私の手間というものも考えてほしいものだ』
「…ポルカまで…んもう…いいじゃない、何だって」
「…そっか…ふうん…」
「何？ 何か言った？」
隣から小さな声が聞こえたような気がして横を見る。しかしエイブラは下を向いたまま。
「…どうしたの？」
「へ？ いや、だから、何でも何でもないんですのよ」
今度はカンパニーコールを示すサインと着信音が鳴り響く。…メインモニタはさらに分割されて三つ…こんなことはまずないことでもある。例えば緊急事態で管理局から頻繁に連絡がある、とか。そういう事態になると、周囲の宇宙機からも連絡が入るし惑星上からも軌道ステーションからも連絡が入ることになるから、三分割どころか四分割や五分割されることもあり得る。
…もっともそんな例は今までほとんどない。普通は二分割がせいぜいなのだから。
『おーす…マズルカー、生きてるかー？』
ジルバである。ただし、彼は惑星上にいるのでこことは「時差」が起きてしまう。こちらが話しても（もちろん向こうから話して来られても）即返事が返ってくる…ということではないのである。すでにつっかえつっかえを通り越してしまっている状態なのである。
『セラから聞いたけも知れんけどー…なんか、今、タイニィビートに乗ってるエイブラてのはこっちでも存在してねーよーなやつなんだと。軌道管理局だけじゃなくてー、こっちの連邦警備局にも連絡入れといたけどなー…第二衛星の軌道ステーションにも連絡入れたけどなー…ま、どの道あと十日は飛び続けなきゃなんないし、その間はどうしようもないんだと。だから、ま、うまくやってくれいってことだー』
なぜか彼はこういう通信の時に語尾を伸ばすクセがある。
当然この通信はカンパニーコールなので他の二社…ホープフルとカルスのチーム・フランカーの方には流れないようになっている。が、大体どんな内容なのかは分かっているのだろう。それそれの画面から皆がじっとマズルカの顔を見詰めている。無論ジルバも返答を待っているはずである。
「分かったわ。とりあえずこっちでできることはやっとくから。何かあったらまた連絡するわ」
そんな状況の中、マズルカはしっかりそう答えたのであった。…それからちょっと、いや、それなりに間があって…ジルバが『りょーかい』と言って通信を切ったのであった。
