そんなわけでマズルカは今度はあぐらかいたままふわり、と浮いてみせたりする。…ヒマなのか、そこまで。ここでくっちゃべってるよりも、他にやらないといけないこととか、ホントはあるんじゃないのか？
「…てことはさ、あんたが前にアレ解いた時はなんかヒントみたいのあったってことっしょ？」
「ヒント？」
「パズルとか大抵そうじゃない。こーんなややっこしいのとかめんどくさそーなのとか、いっぱいあるじゃん」
両手をぐるぐると回転させてみたりうねうねと両腕を絡み合わせてみたり。『ややっこしい』『めんどくさそー』を表現しようとしていると思われるのだが、これではただのタコ踊りである。
「あーいうのってさ、なんかヒントがあるから解けるってもんじゃないの？ 昨日のとか」
「あの時は適当にそれっぽい文言を入力してみただけですわ。ヒントってほどでもないですわね」
『今回のにはそういうヒントがあるんじゃないのか…と、そう思うわけか』
「まあね。意外なとこに意外なきっかけがって、なんかそんなんよくあるじゃない」
今度は機長席に泳ぎ戻って、うーん…と体を伸ばす。
『思い込みの差…盲点というやつか』
「そんな小難しいもんじゃないけどね」
「むー…お姐さまにしては上出来ですけどそうそう簡単にヒントなんてものが…」
しかし、そこで…ピン、と何か思いついたらしい。指を一本立てて、にまり、と笑みを浮かべてみせたりする。
「もしかして、ですけど。こういうことかも知れませんですわよ…」
『ソースを解析してみる？』
「はい。昨日生成された星間図。あれがやはりどうにも怪しいのですわ」
『怪しい、というのはたしかに理解できるが…あれは画像ファイルに若干のデータを挿入しただけのものだ。何をどうできるというものではあるまい』
「それでもいいんですの。要はヒントなのですから。それにデータを挿入した画像ファイル、という単純で簡単なものではないようですし」
目の前のメインモニタ上で昨日出てきたファイルを実行してみる。つまりは画像を表示させてみる。
惑星と第一衛星と第二衛星。そしてそれらを結ぶ何本かのライン。それぞれがきれいに色分けされていてよく分かるようになっているのは昨日と同じである。こういう風に画像を表示させる、というのは何か表示させたいデータがあって、それを実行することのできるプログラムも一緒に存在することで初めて表示できることになる。それぞれが単体では役に立たないことも多い。
料理の素材だけあっても何ができるか分からないが、それらを調理できる調理師がいれば料理を作ることができる。そういうことである。
通常ならこういった画像を表示させるためには閲覧ソフトである『ビューワー』も自動で起動する。これは画像のフォーマットが軌道上でも惑星上でも同じ、もしくは完全な互換性があるからこういった簡略化された動作で閲覧することができるのである。
が、エイブラが画像を表示させた時。どうも通常とは若干違ったアクションを起こしていたのである。どうもこのファイルには画像を表示するビューワーも自前で組み込まれていて、実行と同時にそれも立ち上がっているのである。
『…なるほど。これは気づかなかった』
「いかがです？ ただの星間図ならこんな過剰で余分な仕組みを持たせる必要はないのじゃありませんか？」
『画像フォーマットはごくごく普通に用いられる汎用形式だが…これすらもダミーと言うことか…』
「画像ファイルは他のでも同じように閲覧できますからダミーではないようです」
簡易マウスをぐりぐりと動かしてポインタをある一点に合わせる。そこは基本動作を行なうプログラムへのショートカットを集中して設置している場所なのである。各種アイコンをクリックすれば、例えば動画を流している最中にデータ転送に添付する文章を書くためにメーラーを起動…なんてことも可能になる。もちろん、マズルカはまずつつくことのないエリアである。
エイブラが起動したのは普通に使っている標準装備の画像ビューワー。つまり今は同時に二つのビューワーが立ち上がっていることになる。
その二つの画像は傍目からでも差は認められない。細かい部位で見れば違いはあるかも知れないが、こうやってファイルとして閲覧する分には問題はない、ということだ。
「ま。こっちのはこうやって色々できますけどね」
一気に第一惑星にズームしてみたり航路？らしいカラフルな線を回転させてみたり。くっついてきた自前のビューワーを使えばこういう芸当もできるということだ。一般的に使われている（エイブラが後から起動した方）ビューワーではこんなことはできない。
「むしろ本当の目的はこのビューワーを立ち上げさせるのが目的なのではないかと。そして…」
キーボードを片手で叩く。ほんの数回だけ。
「これのソースを見れば何らかのヒントになるのでは？ と思ったのですわ」
