「あれ？ なんだか合いませんわね」
『全てのパターンで試してみるか』
どうも意味の通る言葉では合わないらしい。13桁あるから組み合わせの数も相当なものになる。同じ文字が重複していいのかどうかも分からないからさらにその数は増えてしまう。…正直一つ一つ打ち込んでいくのは大変なことになるのでは、と思うのだが。
同じことをエイブラもポルカも考えたらしい。
最初はポルカが作成した文字列をエイブラが手で打ち込んで行っていたのだが、やがて入力までもポルカの処理に任せることにしたのである。そういったツールがあらかじめポルカの中や接続されているコンピュータの中にあったわけではない。ポルカが自分で組み上げて実行させているのである。何、そんなにややこしいことを実行しているわけではないのだ。ただ、重複を避けるためのチェックなんかがややめんどくさいだけのことである。
それでも全ての組み合わせを試すには少し、時間が必要となる。
「あ。あたし、エンジンの定期チェックがあったんだ」
ふわあ、とあくびかましながらマズルカが機長席からふわりと身を起こす。
「はあ…いってらっしゃい。お帰りはいつに？」
「終わったら戻ってくるわ。それまでよろしくぅ」
チェックリストを片手に、めんどくさそうに手を振って操船部から漂い出ようとしてしまう。これから最後尾にある機関部にまで向かわないといけないのである。
「…そんなにかかんないわよ」
「はあ」
『……』
こういう量の多い処理を実行している時はポルカは反応しないことが多い。代わりにモニタがON状態になっていることを示すランプがちら、とだけ明滅した…ように見えた。ポルカが返事としてやったのか、あるいはモニタの調子があまり良くないのか。どっちかは分からないが、マズルカは一回うなずくと操船部を後にしようと泳いでいく…。
と。壁に手をついてちょっとストップ。顔は向こうむいたままである。
「？」
「いい？ 迷ったら最初に戻るのよ？ 回り道も悪くはないけどあんまり迷ってばっかりじゃ人生、つまんないわ」
「何ですか、お芝居か何かのセリフですか？」
「そんなもん」
「はいはい。分かりました。とにかくお仕事頑張ってくださいな」
ひらひら、と軽く手を振ってマズルカは行ってしまった。
それから二人？で解析を進めていったのだが…。
『うーむ…』
「うーん…」
すでに処理を終えているポルカ。操縦士席で腕を組んでいるエイブラ。ただし、彼女は正確には操縦士席には着いていない。浮かんだまま頭を下にしているのである。こういう場では不自然ではない操縦士席の上に浮かんでいる状態なわけであるが…やはり難しい顔しながらあぐらをかくような姿勢で腕を組みながら浮いている。
「おかしいですわね…」
今度はくるりと一回転。でんぐり返しのように上下に一回転ではない。ちょっとだけ足を伸ばして操縦士席の背もたれを小さく蹴っての側転での一回転である。ここまでしなくてもいいのだが。恐らく当人にもあんまり意識はないんじゃないだろうか。ちょっとあぐらを崩してみたら足が背もたれに当たってしまった、とかそんなもんかも知れない。
『このやり方ではない、ということか？』
…二人？して唸っているのは結局解けなかったからである。あれだけ時間かけたのだが、ダメだった…ということである。
「他のやり方なのですかねえ、やっぱり」
『うむ…何かあるか？』
「そうですわねえ…」
とか額突き合わせて（無論イメージ）低い声で話していると、マズルカがやけに元気な顔で戻ってきた。
「やっほお。どお？ 解けた？」
作業着なのだが端々がちょっと黒く汚れているような気もする。よく見ると顔や髪にも黒い汚れが着いているような…しかしエイブラはあえて無視しているのか気づいていないのか。大きなため息と共に困った顔をして見せる。
「ダメですわね。何か他の手を考えますわ」
『残念だが仕方あるまい』
「ふーん？」
よっこいせ、と機長席に近寄ってコンソールをONにする。これでこちらからも操作できるようになったのだが。
「ちょっとやってみよっか？」
