『で…？ 一体どんなものが入っていたのだ？』
そしてエイブラが出てきたファイルの確認作業を始める。
「ええっとですね…」
メインモニタ上には両開きのふたを開けたような箱のアイコン。そして…二つのファイルが生成されていた。今回は特に光ったりはしないようで、モニタも通常通りである。ファイルのうち一つはやはりカギ付きなのだろうか…パスワードがなければ開かないタイプのファイルに付く「鍵」の小さなマークが付いている。
そしてもう一つ。こちらはファイルではなくフォルダになっているようだ…。
「第一衛星軌道上第三コロニーにおけるクモハナガクレの分布とキンセンホウカの仲介によるカン・シャー症候群の分散について」
「…何その呪文」
「これがフォルダ名ですわ」
『何かの論文のようだな』
「そうですか…中には…」
長ったらしいタイトルのついたフォルダを開けてみると。文書作成によく使われる形式のファイルが一つ。そしてこちらも汎用的に使われる画像データが三つ。
『容量から言えば文書の方が非常に軽いな。ほんの数ページだ』
「画像の方は？」
『…問題はない。ウィルスもなければ隠しファイルも埋め込まれてはいない。普通の画像データだな』
「じゃあ、見てみましょうか。特に画像の方。専門的な学術論文なんかちんぷんかんぷんだし」
『よし。画像を表示してみよう…』
一枚目：
カニのようなクモのような。小さな虫の写真らしい。こういうのは三次元的に表示できるように画像を加工したりすることもあるのだが、これは特にそういったことはしていないようだ。石のすきまにいるその灰色の虫が、飛び出した目でこっちを見ている…ようにも見える画像である。
二枚目：
赤い花の写真。やはり三次元的な加工はされていない。…しかしあまり見ない花である。花びらは楕円形より少し長いものが10枚程度だろうか。中心の小さな円を取り囲んでいる。色は赤、と言うより赤紫の赤を非常に濃くしたような色合いで…かなり深い赤、紅色と呼んでもいいかも知れない。葉っぱも見えるのだが、ぼやけてしまっている。写真の撮り方にもよるが、もしかしたら茎の背が高い植物なのかも知れない。
三枚目：
これがどうにも分からない画像ではある…。これもやはり三次元加工もされていない、普通の写真のようなのだが。
「なんだろ、お祭り？」
「…いや、違うんじゃないですか？ だって、小さな虫がいっぱい死んでますよ？」
『たしかに、羽虫のような虫が大量に散らばっているようにも見えるな…』
「でも人がいっぱいいてさ、あんだけ楽しそうじゃん？」
言われてみればこの写真、両手を上げて喜んでいるように見える人物が二人…いや三人、石造りの建物をバックに道の上にいるのである。道はきちんと舗装された道路であり、撮られた場所はちょっとした都会なのかも知れない。服装がいかにも都会っぽいのである。
「…楽しいことがあった、そういうことかも知れませんね」
道路の上にはよく見ると羽虫のような小さな虫がかなりの数死んでいるのが見える。
「なんなんだろうね、全く」
「あ、ポルカ様。文書の方は？」
『…読んでみるか？』
「え…えっと…」
ポルカは外見上はただの腕輪だから表情などは読み取れない。が、その声の様子がどうにも不穏だったのだろう。やや引きつった顔になるエイブラ。
『少なくともマズルカ辺りには読ません方がいいだろうな。頭が爆発するかも知れん』
「いや、まさか、そんな」
いくらなんでも実際には起きないだろうが…なんだかそういうことが起きても不思議ではないような気がするほどの内容なのだろう。
「え？ あたしには分からんってか」
『うむ。やめておけ。…エイブラはどうする？ はっきり言って難解とかそういうレベルではないぞ』
言われたエイブラはちらっとメインモニタを見て…それから「ふうむ」とか言ってあごに手をやってるマズルカを見て…
「やめときます。私もまだ壊れたくないですし」
『そうだな、その方がいい』
「でもさ、どんな内容か、くらいは分かるんでしょ？ ちゃちゃっと教えてよ？」
なんだかまるで試験範囲を優等生に聞く落第寸前の学生のようでもある。
