ぶつん、と強引に切れるように外部音声端末からの音声は途絶えてしまった。
「…もしかして…嫌われてます？ 私？」
「いえ、まあ、そんなことはないと思いますが…人見知りするんですよ、サルサは」
「まあ…」
しかしここまで激しく拒絶することはなかったのである。いつもはどちらかと言えば恥ずかしそうに一言二言口にする程度だったのだし、呼べばすぐに出てくることは出てきていたのだから。
…まったくめんどくさいなあ…。
とりあえず着替えたいジルバではあった。何せこんなきゅうくつな格好をしたのは一体いつだっただろう…？ とか思い出そうとしてみても全然思い当たらないほど前だったりするのだ。いや、もしかしたら何かで使うかも、と購入したっきり申し訳程度のクローゼットに放り込んだんだっけか…？
とにかくこんな着慣れないものはさっさと脱いでしまいたい。
「ちょっと、着替えますので…失礼」
ロッカールームとかそんな気のきいた施設なんぞないのだ。そそくさといつものラフな服装抱えてついたての後ろに隠れるジルバであった。
その頃のマズルカたち。
こちらもミョーな沈黙が辺りを支配している。ポルカは相変わらず腕輪然、として例の筒に収まったままだし。マズルカはすることもないのか（ちょっと前に駆動系と電子装備系の毎日やらないといけないチェックと微調整を終了させてきたのである）機長席の「上」で頭を逆さまにしたままゆっくりと縦回転していたりする。本当にやることがないのだろう。
で、エイブラは…？
すでに操縦士席にはいない。しかし操縦士席のちょい右辺りの壁にコンソールの一部（キーボードと付属する小さなモニタだけ着脱可能。操作すると複数の領域の光線によって本体に繋がるようになっている）を押し当てたまま、体を思い切り伸ばした子供みたいになりながら何やら操作している。…マズルカの「上」もそうだが基本的に上下の概念は存在しないので、エイブラも体の下から見上げてみればバンザイでもしているように見えるだろう。
ただし、そんな格好でも一言もしゃべらない。…昨日までだったらなんとかしてマズルカのアラを探そうとあることないことしゃべりまくりだったのだが。
「ふーーー…」
なんだか息を吐くのも危険なことをしているような、そんな気がする…。
「ね、ねえ」
それでも話しかけてみるのがマズルカである。
「はい？ お姐さま？」
「な…何やってるのかなあ、一生懸命？」
するとやや誇らしげ、にも見えるような表情で…眉の辺りが自信ありげにも見えなくもない…付属しているモニタを掲げて見せる。
「あのパズルを解いていましたのですよ」
例の昨日エイブラがひーこら言いながら解こうとして結局単語一個放り込んで解けてしまったアレの続きみたいなものである。ここのところ一つ解くと次が出てくる、それを解くとまた次のカギ付き圧縮ファイルが…というのを繰り返している。
ただし出てきたファイルには必ず何かヒントになるものが添付されているのだ。そのヒントを解いているようなのだが…？
「何が書いてあったの？」
たしか今回のは圧縮ファイルとテキストファイル、つまり何か文字が書いてあるファイルだけだったはずである。エイブラはキーボードをやはり優雅に操作して、全文を今度はコンソールの大きなメインモニタに表示して見せる。
『ほお…』
「へえ…」
「こんな内容だったです」
やや恥ずかしげにエイブラ。ただし
「で、何て書いてあるの？」
『これは…どこの言葉なのだろう…？」
二人？の目の前に出てきたのはとてもではないが理解できる文列ではなかったのである。
