『…亜sjhr負ｈｃンcvrｇｈふぃおｓｈんｋｆでゅfｖは；ｌｋｓｄｊｓｄｌ；んｍxbhvbjcん、ｘｓｃんｊｄssjｋｄｓｊkcｊｃｊｃｃんｄｊるうつりゅｂｊｈっ差ｈｄｇｖｂｈｃｙｒydcｈｖｃxｘｓjjsvczxびｙるええ…』
こんなのがだらだらと続いている。容量的には大したことないのでそんなに長く続いてるわけではない。それでもメインモニタ一枚がこんな意味不明な文字列で埋め尽くされているのだ。ファイルと表示する側の文字設定が合致していない「文字化け」の可能性もあるが、ポルカとサルサが徹底的に改良している船載コンピュータである。惑星及び衛星上に存在する言語はほぼカバーしているはずである。
「なんか、適当にキーボード叩いた時みたい」
そんなことやったことあるのか…。
『寝ぼけた時にマズルカがよくやるな』
まあ、たしかにポルカなら見たことがありそうである。報告書を作る時にでも見たのではないだろうか。彼女がまともにコンソールに向き合う、というのは離着艦の時くらい…と言ったら言いすぎだろうか。ポルカなら『それでも甘い』とか言いそうではあるのだけれど。
「たしかにそう言う風にも見えますが」
…いやにさらりと流すなー…。
「実はこれにはいくつかの法則性が見て取れるのです。不要な文字列を排除、そして必要な文字だけを残していきます…」
さらさら、と再びキーボードを指が走る。やはり意味もなくなんだかどぎまぎしてしまうマズルカ。
「圧縮ファイルの解凍に必要なのは9字です。結果として残ったこれを当てはめてみれば…」
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メインモニタ上でアスタリスク＊にこれらの文字列が入力されていく。たしかに合ってさえいれば多分またあの、ぽん、という音がして開くはずなのだが…。
代わりに鳴ったのはエラーを示す無粋なビープ音。しかもファイルのアイコンには一切の変化がないのである。
「違っちゃったもんはしゃーないわね。また、次のやり方に期待しようよ」
うーん、と大きく背伸びするマズルカ。しかし…
「…はい…すみません…」
ぐぐっと両こぶしを握り締め、うつむいてしまうエイブラ。もちろんこれは定点観測のごとく彼女が壁を向いている方から見た時の話である。上下の概念はないから下から見上げてみれば…泣いている。前にも言った通り涙は無重量空間では頬を伝わらない。無数の球形と化して機内を漂うことになる。
機内のエアサーキュレーションシステムをさりげなく強化したのはポルカだろう。このまま水、しかも若干でも塩分を含んでいる可能性のある水滴なぞ漂わせておいたら計器にどんな悪影響があるか分かったものではない。そのためこういうのはさっさと吸い込んで処理してしまうに限るのである（もっともエイブラのような特殊なミメットがヒトと同じような成分の涙を流すのか、と言われればそれはそれでまた分からないところではある）。
「なーに泣いてんのよ」
無意味？に回転していたマズルカが壁を蹴ってエイブラの頭の上まで跳んでいく。
「…すみません…わたくしが…」
「だから…いいんだって。まだ次があるんでしょ？ 何か手を考えてんじゃないの？」
「それは、その…」
「その、何？」
わしっ、とエイブラの頭をつかんで…ぐりぐりぐり。
『…子供だな。まったく』
どっちも、という言葉はあえて飲み込む。呆れているようにも聞こえるが、どちらかと言えば実はにやにやしている、とかそんなとこだろう。
「まだ手があるんなら試してみなって？ ね？ それで挽回できんじゃん」
「でもまた失敗したら…わたくし…」
がくん、とうなだれるのがマズルカの手のひらにも伝わってくる。
…まったくめんどいなあ…。
「そん時はそん時！ また考えたらいいっしょ？ あんただけじゃないんだから」
「いいんですか…？ わたしがまたやっても…？」
「いいに決まってんじゃん。どうせあたしがやったって何もできそうにないし」
…しっかし…ったく…昨日の今日でなんでここまで性格変わるかねえ…？
