「昨日の…今日…ですか？」
思わず口に出していたらしい。しかし何を言っているんだろう…という表情。
「あんた、昨日はあんだけ自信たっぷりだったじゃない。それがなんでこんな大人しくなっちゃうのかな、ってこと」
当然至極な疑問である。…なんかヤバそうな状況だからとりあえずマズルカとポルカは黙ってた、というだけのことなのであるし。
しかしそんな当たり前な疑問をぶつけてみても。
「えっと…お姐さま？ ポルカ様？ わたくし…？」
右頬に右人差し指を突き当てて、軽く頭を傾けて見せる。さらに今はマズルカがまたふわりと浮き上がっているので、位置的にはエイブラは下から見上げるような格好になる。そして足は伸ばさずに広げて尻からぺたん、と床に座るいわゆる「とんび座り」で左手は恥ずかしげにちょっとだけ開いてる両足の間へそっと添えてる、となると…。
「前」のエイブラだったら問答無用で張り倒していただろう、マズルカが。いや、マズルカでなくともポルカだって腕があれば張り倒していたかも知れない。なんかのお人形とかアヤシイ画像とか平面限定のオトナな画像とかゲームとか。そういったところならよく見かけそうな、逆に言えば普段普通に生活している限りまずお目にかかれないようなポーズと雰囲気なのだ。
そういうある意味レアな状況がここまではまりまくってしまう「今」のエイブラ。
どうしろ、と言うのかその辺も分からない二人？ではある。エイブラの素性を知らないのだから当然と言えば当然なのだが…フツーの人間が一夜でいきなり性格変わったら、そりゃ誰でも驚くものではある。
と…そこへ通信を示す点滅するアイコンと軽いビープ音。
「あ…わたくし、出るです」
止める間もなくエイブラはコンソールへ向かい…やはり優雅な手つきで操作して通信を受けてしまう。…おしゃべりタイムではないが、何か重要な情報が入ったのではないだろうか。メインモニタに映し出されたのはやや真剣な表情の、ホープフルのケリーである。
『マジー？ あのね、そっちにも通信が行くとは思うけどね、航路上にお荷物が転がって…』
それまで手にしていた持ち運び用薄型モニタから目を離していなかったのだが。ひょい、と自機のメインモニタに目をやったのだろう、視線はもちろんタイニィビート号の中を見渡すことになる。「あ」に濁点つけてうなりながらアタマ抱えてるマズルカと、そしてどっかで見たような全然見てないような、しかし明らかに初見の弾けるような甘ったるい笑顔の少女が一人。
「ケリー様、一体どうしたのですか？」
口元に両こぶしを揃えてやや上目遣いのちょっと首をかしげて…。
ぎ、ぎ、ぎ、と擬音つけるならこういう油の切れた機械関節が適当だろう。そんな音を立てるように首を巡らせて…見知った顔を探す。
『…マ、マジー…？』
「う、うん、ケリー？」
『な、なー…何？ これ？ ポルカ？ ねえ？』
生体があれば大きなため息でもついてるところだろう。しぶしぶ、といった様子のポルカ。
『エイブラだ。会ったことはあるだろう？』
『え…え、そりゃあ…昨日』
『それだ。以上』
以上じゃないだろう。
『え、え、えー、ってどこが？ あのほら、なんか小憎たらしくてこまっしゃくれたあの娘じゃないの？』
はー…、とこっちは本当に大きなため息。
「なんかね、よく分かんないんだけどさ、このコがエイブラで昨日のアレもエイブラってのは間違いないみたいなの」
ちょっと時間が必要だったのだが。なんとかケリーは状況を「理解」したらしい。ただ、どこまで「理解」できたのかは誰にも、ケリー本人にも分からない。とりあえずタイニィビート号に乗ってるエイブラがちょっと（いやだいぶ？）変わってしまったらしい…というところは「理解」できたのだろう。
それじゃあ、マズルカたちとあまり変わらないか。まあ、そんなものであろう。…ただ、めんどくさいのはこれからルークとかセラとかが通信してくるたびに同じようなことになりそうなことである。
『いいわ。ルークには私から話しといてあげる』
一気に10歳くらい老け込んだような気もする…なんか悟りとか開いたようにも見える。じわじわと衝撃を受けていったマズルカたちと違っていきなりモニタにとんでもないモノが現れたのだ。そうでもしないと精神的な健康とやらが保てそうもない。
『ミヒャエルからそろそろ積荷のことで連絡もあるし。その時にあっちにも説明しとくわ』
「ありがと、ケリー」
『ふふふ、ふふ。…まあ、色々あるわね、ふふ、ふふ…』
なんだかちょっと壊れてきてるような、目線が合ってないような気もするが…気にしない方がいいのだろう。
