ちなみに。アンヘラの肩書は『シードレ本署電子演算犯罪課課長』であり、これはシードレ郡警察所属、ということになる。
実際に勤務しているのはそのカラナにある本署ではなく、ハイタワというインナリウスシティの隣にある都市の『シードレ郡警察ハイタワ分署』（ジルバが向かったのもここ）だったりする。シティと同時に発展していった一種の衛星都市となるが、こういった都市は他にもいくつかある。
ハイタワは特に官公庁関係の支部や支所が多いことでも知られている。…シティの市民がいちいち郡都カラナに出向く必要がないようにこうなってしまったのである（それがカラナ凋落の原因の一つであることは言うまでもない）。そもそも本署所属の役付きがなんで分署に机持ってるのか。その辺のパワーバランスはかなり微妙なところではある。
なお…インナリウスシティにはシティ警察もある。郡警察とは捜査を巡ってちょいちょい対立もあるらしいが、それなりに折り合いをつけているとのこと。
「どうします？」
「そうですねえ…」
軌道エレベータを中心に発展してきたから、併設されている軌道上関連企業が望むような形でのサービスも多い。食事関係だと、24時間営業のレストランやコンビニなんかがあちこちにあったりデリバリーサービスの店も多かったりする。
軌道関係の職場では通常の時間感覚は無視されることがほとんどである。一般なら常識となる『朝起きて夜寝る』ですら通用しないことも多々ある。何せ軌道上の時刻は統一されているがそれはここら辺の時刻と同じ、というわけではない（インナリウスシティだと時差は2時間程度）。さらに他の地域の軌道関係会社と連絡を取る必要がある場合もある。こういうのは商社などでもよくあるのだが、中小企業の多い軌道関連産業では少人数で終日対応しているところも少なくない。もちろんメールでのやり取りや留守録なども活躍している。しかし繁忙期には職場に詰めっぱなしとかそういうことも少なくはない。
だから職場によっては完全に昼夜逆転している、というところも珍しくはない。周囲もそれを十分に知っていて、そういった事情に合わせているフシもあるのだ。他の都市ならなかなかこうはいかないものではある。
もちろんジルバもそういった店のお世話になることも多いのだが。
「ちょっと今は手が離せないので…」
さりげなく、さりげなく。現在デバイスが稼動しているウィンドウだけを後ろ手で最小化することに成功。これでとりあえずは画面を見られても問題はないだろう…。
…どっかのガキか、僕は。
「デリバリーでも頼みますか」
なるたけ平静を装う。しかしどうにも微妙な表情と目線は隠せない。
「え。何かおすすめとかあるんですか？」
「月並みですけどピザとか…ライス物もあるにはありますけど」
ぽーん、ぽーーーん、ぽーーーーーん……
「…何か鳴ってますよ？」
「いや、これは、その、大丈夫なんで…」
例のデバイスが作業終了を知らせてきたのだ。ついでに折角最小化したウィンドウを最大化までしてきやがる。
…何のことはない、デバイスを組んだ時にジルバ本人がそういう仕様にしてしまったのだ。言うまでもなく作業の効率化が目的で、それ以外の意図はない。このデバイスはどうしても作業開始から終了まで時間がかかる。その間に他の作業を進めておいて（いくつもの作業を平行進行することはいつものことである）、終わったら知らせてくれ、ウィンドウも大きくしてくれると作業が楽になるなあ、とかそんな程度のノリ？だったのだが…。
「お急ぎ…じゃないんですか？ あ、ジャマ…しちゃいましたか」
「そうでもないんです、大丈夫です」
しかし『ぽーーん』という軽快な警告音は鳴り続けている。
「えと、じゃあ、その、ちょっと作業しますんで…」
とりあえず獲得したファイルを確認…。
「…あの、こんなこと言うのはなんですが」
それから最小化…。
「何か隠してません？」
『ただいまー、あー、楽しかったですう…あれ？ 探索デバイス作業終了してるじゃないですか、ジルバ。ちゃっちゃと兄からの依頼、片付けちゃいましょー！ まずはポイントのログ獲得だー！』
と、珍しくハイになってるこの脳天気娘が帰ってきた瞬間にそんなこと言い出したものだから、さすがのジルバも思い切り固まってしまうのである。
