「『ゾラ』の次によく出てくるのが『ユリアーナ』、この人はとっても繊細なんです。でも非常に優れた感性と頭の良さを持ってます。ちょっと打たれ弱い面はありますけど…優しい女性なんです」
「その二つ…なんですか？」
「いえ。もう一人。『ザビエラ』がいます。これはめったに出て来なくて目撃例もほとんどないんですが」
『あの…一つだけ』
「何かしら？」
『ゾラ・ユリアーナ・ザビエラってもしかして26文字の逆からつけていってません？ Zora・Yuliana・Xavieraって』
「あら。さすがサルサさん。いいとこ突いてきますね」
『でも、なんで…？』
すると人差し指を唇にあて…上目遣いにちょっとだけ色っぽい笑みを浮かべて見せるのだった。
「だって…エイブラですもの」
「ログの取得ができたそうです…今、データが送られてきているのですけど…」
『ふむ…ジルバのやつめ、一体どんな手を使ったのだ…？』
データはやはり小分けにして送られてきている。暗号化もかけられて第三者には内容が把握できないようになっている。…いや、暗号化も何も内容はただの数字の羅列なのだから、第三者にとってはやはり不可解な内容なのかも知れないが。
「…メールを送ってみましょうか…？ それとも通信を？」
『いや。そこまでする必要はないだろう。あっちも忙しいだろうしな、それにこの際手段はどうでもいい。結果が出ていればそれで十分だろう』
こくん、とうなずくエイブラ。軽快なビープ音が鳴る。
「一つ目、ダウンロード終了しました」
全部落してきてから結合ソフトを使う。もし欠損していればそのパーツだけ再送してもらえばいい。
『四つか。結構あるな』
「そうですね…」
『やはり、第一衛星を疑うか』
「はい。でも…」
『でも、なんだ？』
「目的は…何なのでしょう？ わざわざそんなことしてまで送ってくるなんて」
その頃マズルカは貨物室で組んだ「傘」の部品を船外に持ち出し…組み上げる作業に没頭していた。
いや、没頭、というほど殊勝ではない。ポルカがうるさいから非常用コール以外の回線を切ってしまっているから他へ聞こえはしないが、何か行動を起こすたびにぶーぶーぶーたれながら作業をしている。…状況をよく知らない人が聞いたら『あんた、宇宙飛行士に向いてないんじゃないの？』とか思われてしまいそうなほどに。
『あーう、もう…あといくつあんのよ…』
「傘」の部品は基本的に「骨」と「幌」となる。合成繊維の「幌」はすでにエイブラがあらかた仕上げていて、コンテナにきちんと収まっている。後はこれを引っ張り出して「骨」にくっつけていけばいい。こちらはそう問題はないだろう。
問題は「骨」の方である。ここが無重量空間で幸いというものではある。そこらのビルくらいはある長さの特殊合金製ポール…ぶっとい電信柱とも言う…をいくつもいくつも船体と繋いでいかないといけない。これがもし船体保持のためにあらかじめ用意されてあった保安部品…とかそういうのなら話は簡単なのだが。
大抵の場合はお互いを繋ぐソケットのような部品が船体にも部品にも設置されてあるのだ。そこへ差し込んでちょいと調整すればオッケー、てなもんなのだ。
これは船外作業を短時間化・効率化するためなのである。船外作業員は船外作業一回でとんでもない量の放射線を浴びる…というのは昔話。現在は気にする必要がほとんどない程度になってしまっている（たまに線量が異常にふくれあがることがあって、そういう時はさすがに船外作業自粛警報が発令される）。しかしそれでも船外作業というのは危険と隣り合わせなのは変わらない。
そのためその方面に適したミメットもかなり普及している。船外作業に特化している、とされているのは最近ではソリッドカンパニーの「Smm/Smf06-001-027」シリーズだろうか。呼吸気を必要としない、無重量空間に適応した筋組織や外装を持つ、など様々な特徴を持っている。もちろん外見は普通の人間と変わらない。
これの一つ前となるSmm/Smf06-001-015シリーズは現在でも販売されているが、体内に推進剤を積んでいて足裏からそれを吹いて自身で進むことができる。しかしその分どうしても重量がかさむことになり…推進剤を一定量吐き出しておかないと与重量施設に立ち入れなくなってしまった。これでは何かと困ることもある。
そのため後継シリーズとなるSmm/Smf06-001-027は通常の船外作業服を使用できるようになっている。無論、呼吸気を必要としているわけではない（装着時には呼吸気タンクを外す）。船外作業服には推進装置がついている。これを利用するためなのと、人間も着ることのできる船外作業服を共有することでのスペース省略化を狙っているのだ。前代のSmm/Smf06-001-015シリーズ（ゼロイチゴとかマリンとか呼ばれる。マリンはSmf06-001-015-MARINEという有名なミメットにちなむ）には必要ないが、ミメットによっては船外作業服が必須だったりすることもあって、そこら辺の簡素化も狙っているのだ。
