マズルカ・マズルカ The "2nd" Day page 31

　すでにエイブラはキャビンにある技術者席付近へと泳いで行ってしまっている。ここはアームを含めてそういった船内船外作業を統括的に操作・管理することができるようになっている。船長席や操縦士席でもこういったことはできるのだが、あえて独立させておくことで作業の効率化を図っているのだ。…一応「席」なので椅子らしきものもある。しかし通常は壁に収納してある。無重量空間ではいらない品だから。
　大気圏突入時や軌道上のステーション接近時には着席してシートベルトをする必要があるので、何らかの事情で「三人目」が乗ってきたら使う、という程度なのではある。

「で？　二つ目の理由って…何よ？」
『うむ…』
　珍しく言いよどむポルカ。人間ならば視線を下に落して、どういう風に説明しようか迷っている…とかそんなとこだろうか。付き合いの長いマズルカだからそういうように心情？を汲むこともできる。
「どしたのよ一体？」
　することがないからそこらで頭からぐるぐる縦に回転を始めてしまう。
『実は…な。航海当初から送られてきていた…アレに関してなのだ』
「何か分かったの？」
　回転を止めて…いや、行き過ぎて少し逆回転をかましてみたり。
『何か、と言えば…何かだ。うむ』

　ちら、とエイブラを見るマズルカ。技術者席付近で真剣な表情のままモニタをのぞきこみながら、タッチパネルの上を縦横無尽に指が動いている。
「…聞かれちゃまずいってか」
『そんなことはない』
　そもそも仕切りも何もない狭いキャビンの中なのだ。当たり前のように二人の話し声は聞こえている。
　…あ、こっちに気づいた。にこ、と笑みを送ってきたりしている。こういうところでナイショ話なんぞ無理である。
「じゃあ、ポルカよりあの子の方が早そうな…」
『いや待て待て。あっちの作業は彼女が、こっちは私がやる、ということになったのだ。だから私が説明する、のだが…』

『…お前、ポイントとか正確に理解できているか？』
「失礼ね。ネットからアクセスした時経由するポイントでしょ？　それくらい常識じゃない。何？　そんなの気にしてたの？」
『いや、それならいいのだが。なら…先ほどジルバから送られてきたログを解析したところ、だな。ポイント経由は全てダミーということが分かった。どうも発信元は惑星上ではないということなのだ。恐らくは…第一衛星から発信されている』
「あのパズル問題みたいのが？」
『そうだ』
「なんで？」
『それが分かればこんなに苦労はしない。…いいか？　今のところ分かっているのはあの妙なパズルは第一衛星からタイニィビート号に向けて発信されている。そして一つを解いた、ということが分かれば次が出てくる仕組みになっている、ということだけだ』

　再び縦回転を始めるマズルカ。くせにでもなったのだろうか。
「…第一衛星かあ…」
『現在では地表への移住も始まっている。しかしほとんどはまだ軌道上のステーションが主だ。恐らくはそこから…』
「でもここまで来てるってことはさ、どんな場所からにしろ送ってきてる人間がいるってことでしょ？」
『ヒトではないかも知れんが、まあ、そういうことになる』
「んじゃあ、そのうち誰か分かるわよ。でも今は分からない。そういうことなんでしょ？　…そんなん今考えても仕方ないってば」

「とりあえずできることだけやりましょ。今はケートレック号のデブリ対応が一番。んで、二番目があのパズル。どっちも船の安全運行に関係してくるから重要っちゃあ、重要だけどね。でも緊急の度合いから言えばこっちが先っしょ」
　人間なら…呆然と、いや、ぽかん、と口を開けてしまったところだろうか。感心しているのかも知れないが、いずれにしても意外なことに遭遇してしまった顔には違いないのだろう。
『うむ…そうだな。分かっていることの方が少ないのだ。できるところから手をつけるべきだな』
「そ。そーしましょ。…あー…あたし、少し寝るわ。時間は大丈夫でしょ？」
『うむ。…通信は入れておけよ。準備が整えば起こすことになる』
「ほーい。んじゃ、おやすみ…エイブラもねえ…」
「あ、はい。お休みなさい」

『そうか…ならばこちらも何とかしなければならん、か…』