と、いうわけでナゾの動画ファイルの解析作業に入ったエイブラなのだが。
これまでとは大分違う趣がある。ただ再生すればいい、というわけでもないだろう。例のパズルと何らかの関係があってもおかしくはないのだ。
パズルに関しては開錠作業に成功すると何らかの「ヒント」が出てきていた。それを解読すれば新たに生み出されたカギ付きファイルが解ける…という流れだった。そして今回の「ヒント」と思われるテキストファイルはたしかに存在している。目の前のメインモニタに表示されているアイコンがそうだ。何か思いついたら処置できるよう、常にデスクトップに表示してある。これはテキストファイル…つまり文字を表記するためのファイル。容量がそんなに大きくないから大した情報…文字の量はない、ということになる。
「でも…」
そう。エイブラは一度この「ヒント」に挑戦しているのだ。結果は惨敗。文字列から有効なパスワードは引き出せなかった。
「これだけが『ヒント』じゃない、としたら…？」
後に送られてきたこの動画ファイル（マズルカがうっかり開けてしまったのだが）が開錠と何か関係している可能性もある。
どうにも種類と言うか感触と言うか。そういったところが似ているような気がする…とはさっき彼女自身が言った通りである。少なくとも関係ゼロではないだろう、というのはポルカも同意見なのではないだろうか。
「とにかく再生してみましょう」
動画と言ってもファイルである。開けてしまった時は何もなかったが、再生と同時にやっかいなプログラムを送り込む、なんて迷惑なファイルかも知れないのである。その辺のセキュリティからしっかりやらないといけない。…まあ、やるのがこのエイブラ（ユリアーナ）なのだからそれほど心配する必要はないのだろう。これがもし「前」のエイブラ（ゾラ）だったりしたらとんでもないポカをやったりするかも知れない。無論、マズルカがやろうとしたらポルカが必死に止めることになるだろうが。
物理的に独立したドライブを使って慎重に再生を開始する。
「こんな古いアプリケーションなんだ…」
最新バージョンなのだがタイムスタンプは数年前。すでに開発が止まっているのだろうか。それともアップデートし損なったか。それに気づかなかった、ということはそれほど頻繁に使う形式でもなかった、ということか。
「特に害はなし。再生してみましょう」
…ふと。既視感、デジャビュとでも言うのだろうか。そんな感覚に襲われる。
目の前に動画として再生されたのはいくつものライン。それも真ん中に球体があって、その周囲を楕円を描いて輪になっている。色も様々。それらがぐるりぐるりと回る。小さな光点が二つ。第一衛星と第二衛星、それに…軌道上のステーションもさらに小さな点として描かれてある。
「これ…まさか…」
こちらは小さなウィンドウに押し込めて、ファイルを探す。…一番最初に送り付けられてきたあのファイルである。動画としてではなく実行ファイルとしてあるものを示すだけのもの。その「あるもの」とは…。
「…同じ…？」
やはりウィンドウに表示させて並べてみる。…細かい相違点があるにはある。しかし惑星と衛星の相関図、という意味では違いはないし…何より描き方が全く一緒なのだ。
しかし、こちらには一切のキャプションなどの文字情報がない（惑星の軌道ステーションに滞在、その後第一衛星の豪華なホテルに宿泊。オプションで第二衛星まで足を伸ばしてみませんか、とかそういう情報）。全く同じものではないようだ。何らかの事情でもう一度再送されてきた、とかそういうことでもないのだろう。ということは、こちらが原画ということになるのだろうか…？
「ポルカ様…」
『どうした』
「これを…」
『………』
ポルカも黙ってしまう。
「一体これは…」
『うむ…』
『どうしたものだろうな、これは』
二つの星間相関図、といったところだろうか。エイブラの目の前のメインモニタには完全にシンクロした動き…惑星に見立てた球体が静かに回転し、うねうねと多数の色の輪が回っている…の動画が二つ、並んでいるのだ。
「…ポルカ様にも分かりませんか？」
『こんなのが分かるやつはそうおるまいよ。…ファイルのソースは？』
「特に異常はありません」
『何か添付されてなかったか…？』
「いえ」
身体があれば大きくため息をつく、というところだろうか。しかしそれでは前に進めない。
『毎度毎度だが、ジルバにでも相談してみるか。少しでも意見を聞きたいところだ。うむ…サルサにも手伝ってもらうか…』
