3時間経過。そろそろ交代の時間である。
「あら。起きてたの？」
一仕事終えたマズルカがキャビンへと漂ってくる。もちろんいくらマズルカと言えども…これだとなんか働き者のすーぱーうーまんみたいに聞こえてしまうなあ…3時間ぶっ通しで船外作業やってたわけではない。随時休憩をはさむのは現場では常識である。ただこの『随時』というのがクセモノで作業する者によって間隔が変わってきてしまう。無論のこと彼女の場合はいかに長く休憩時間を取るか、ということに情熱を傾けてきたのだが。休息を必要としないポルカに散々言われ続けて実働時間の方が長くなったのは言うまでもない。
「それともやっぱり寝てなかったの…？」
「…はい…」
「で、どう？ なんか分かった？」
腕からポルカを外していつのもの筒へ。
「ジルバんとこへ送ったんでしょ？」
手を伸ばしてちょいちょい、とモニタをいじる。とは言っても自分の作業工程と実働時間を確認する程度。
「はい。…でも寝ていらっしゃる、とのことでサルサさんにお願いいたしました。結果はまだ出ていないようです」
ちらり、と時刻を確認する。モニタの端には軌道上で普通に使っている時刻が表示されてあるのだ。送ってから3時間過ぎたのは間違いない。
「あ。そっか、あっちは夜かー…」
『不覚だったな。しかしサルサに伝わればじきジルバにも伝わるだろう』
「そうね。…そいで。あんたは今何やってるの？」
「もう少し試してみようと思いまして…解析方法はまだまだありますし」
それを聞いて、はあー…と大きくため息をつくマズルカ。
ちなみにエイブラはメインモニタにそのまま向いているが、マズルカは逆さになっている。…無重量空間で逆さも何もあったものではないが、エイブラとマズルカはお互いの顔の上下が逆に見えている、ということでもある。
「ポルカ。あたし今から1…んにゃ2時間起きてるから。この子休ませてよ。いいでしょ？」
一瞬、一瞬だが…声にならない声がキャビンの中を支配する。
『もう一度、もう一度言ってくれ。私の音声伝達機関にいささかの狂いが生じたのかも知れんのだ、何？ お前がしばらく起きている、だと？』
「お姐さま…何かお辛いことでもあったのですか？ 私にできることならなんでも…」
エイブラまでこの調子である。分からんでもないが。
「じゃあ、今から2時間。あんたは寝なさい。いい？」
「え、でも、それは…」
「いいから。さっさと寝る。あたしが連絡待ちやっといてあげるから。…いい？ 絶対寝るのよ？ ほら、行くよ！」
なんだかんだ言い訳しそうになるエイブラを居住区にある寝棚にまで引っ張っていって、押し込める。
「お姐さま？ あの、その」
「ポルカ？ 睡眠ガスお願い」
『…そんなものあるわけないだろう。まったく…』
苦笑でも浮かべているんじゃないだろうか、顔があれば。
『エイブラよ。休息も大事な仕事だ。ここはおとなしく船長に従っておけ』
「さて、と…」
メインモニタの前に戻る。肩を軽くひねってみたりして。
「カサ張りはこれで終わり…っと。後はなんかあったっけ？」
『デブリ関係はこれで終了だ。実際、ケートレック由来と思われるごくごく微細なデブリも感知してはいる。船体に影響が出るほどのものではないが、警戒は必要だな』
「そっか。そっちはあんたに任せるとして…んじゃあ、これやってみようか」
あの星図である。
「ジルバ待ち、かあ…」
『さすがのジルバも手こずるかも知れんな』
「だねえ…ふーん…」
タッチパネルにもなっているメインモニタ。星図が示してある辺りに指を置き…くるん、くるん。上下と左右が入れ替わったり裏側らしきものが見えたり。
『これに何らかの情報が隠されているのは間違いないのだろうが、な』
「これさ」
くるるん、くるん。
『何だ』
「実はそのままで何か表しているってのは…ナシかな」
『そのまま…？』
「暗号とかそんなんじゃなくて。そのまま」
