『そのまま？ ですか？』
地上でも同じような言葉が流れていた。
「あんまりむつかしく考えない方がいいのかも、とか思って」
そろそろジルバも起きる頃合である。周囲は少しずつ明るくなってきている。黒い青の中に朝の赤が混じってきて、夜明けの紫色がその境目となっているのが見える。じきに夜も完全に明けるだろう。
「これってさ、星図でしょ？」
惑星上でも同じようにくるるん、と指先で回すアンヘラ。デスクトップのコンピュータだからタッチパネルなんぞ必要ないのではあるが…5台あるうちの1台だけは指で直に操作できるようになっている。何かの時に便利かも…というジルバの判断だが、これまで特に役に立ったことはない、というが実状だったりする。
『はい…恐らくは惑星・第一衛星・第二衛星の相関図と思われます。いわゆる星図、ですね』
「どこのメーカーが作ったか、とかそういうのは分かる？」
『はい。ええと…オーフォレス社製、ですね』
「あ。大手の、アレ…」
アンヘラが思い当たったのは警察署内にもある住宅地図のことだろう。受付などに結構大型のものが置いてある。元々はこういった生活に密着した地図を作っていた会社だったのだ。その設立は古く数百年前と言われる。社史（ほとんど歴史書扱いだが）によればその頃は社員が総出で各地区を回って精度を上げていったのだとか。もちろん現在はネットによる情報収集から独自ルーティンによる地図の未来予想といった方法が取られるため、直接現場に行くことはほとんどないと思われる。
『住宅地図から衛星写真解析による最新の地形図まで手広くやってますね』
「作られたのは…」
『三年前の版ですね。最新というわけではないのですが…その』
「その、何？」
『この地図は観光会社の注文で作成されたようなのです。別に部外秘、というわけではないのでしょうけど…一般に出回るようなものではなかった可能性があります。前に送られてきたものには宣伝文句などが記載されていたんですよ』
一方こちらは軌道上。こちらではマズルカがくるん、くるるん、と回転させている。
『そのまま、か。なんだまたお前の直感というやつか』
「茶化さないでよ。…あの子がね、ちょっとばっかしマジメすぎんのよ」
くるるん…くるん。
「何が何でも暗号に、とかそんなに堅苦しく考えることないんじゃないのかな、ってね」
『ということはお前には何らかの答えが見えている、というわけだな？』
「そこまでいいもんじゃないけどさ」
くるるん、を止めてタッチパネルの上で指を滑らせる。
「ええっと…どこだっけ」
『何がだ』
「最初にね…送られてきたやつ。最初の星図」
『それならここだ。ここに置いてある』
今まで見ていたフォルダの、その中に別のフォルダがある。そこへカーソルが自動で動いていって…もちろんポルカが動かしている…開ける。
『こんなもの、どうするのだ？』
…惑星上。
「その、前に送られてきたやつって？」
『こちらです。このフォルダに入ってます』
やはり今まで見ていたフォルダの中の別のフォルダ。そこを開けるサルサ。
『同じタイプの星図かと思われますけども』
「ふうん…どうにも気になるんだよね、コレ」
『何のことだ？ 一体？』
「なんで同じもんを二個も送ってきたわけ？」
『同じではないだろう。宣伝文句などがあることからすると前に送られてきた方が新しいバージョンということになる』
『こちらの動画はソースにカギが隠されていたのです』
「へえ…ずいぶんとめんどくさいことするもんね」
『そうですね』
「でも同じようなもんを二つってことか…」
「重ねてみよっか、この二個、そのまま」
「ねえ、重ねてみない？ そのままこの二つ」
