『…ほう』
「…ありゃま」
二人（正確には1人と1個）が顔を見合わせる…と言ってもマズルカがポルカを見た、ということではある。
「意外と単純なもんねー、こういうのって」
もちろん惑星上でも似たような作業が続いていた。
『…はあ』
「…あら」
一つだけロックを外していたのだが、それでも問題はなかったらしい。前に来た星図に後から来た星図を重ねてみると、それはあっけないくらい簡単に姿を現した。
例の宣伝文句である。二つの星図は実は衛星の軌道の示す線が微妙に異なっており…さらに後から来た方には新造された軌道ステーションの軌道まで記してある。そういった線や記号がうまく宣伝文句の一部を隠しているのだった。残った文字がそれで浮かび上がることになる。
いつも読んでいるのと同じ方向へ一文字ずつ拾っていって並べてみる。
『aretherghfa』
「分かるかこんなもん！」
メインモニタ接続のメインコンソールを引っくり返しそうになるほどのマズルカ。
『…ふむ。たしかに意味のない文字列だな』
「意味がない、んじゃなくて意味なんかないんじゃないの？ これ？」
『どこに違いがあるのか分からんが、まあ、お前の気持ちは分からんでもない』
「…やっぱあんごー？ これって」
しばしの沈黙。明らかに不機嫌そうなマズルカと物言わぬポルカが一つ。
『…何か隠している、という意味での暗号ならばそれは違う、ということになるだろうな』
「なんだそりゃ。どーせこれからこれひねくり回してなんとかかんとかって単語見つけ出してにゅーりょくしなきゃなんないんでしょ？」
ぶんぶんと首を横に振る。
「もー…やだ。めんどいっ！」
今度はメインコンソールに突っ伏してしまうのだった（もちろん無重量空間ではかなりの大技である。そもそも席になんか着いていないのだし）。
ほぼ同時刻。惑星上でも似たような沈黙が支配する場所が。
「うわー…これってやっぱり暗号なのよね？ これだけじゃ意味なさそうだし」
アンヘラも困り顔である。こちらは右肘をデスクについた状態で、軽く頭を乗せて…ため息。
『そうですね…』
「組み換えとか並び替えとかそういうの、できる？」
『さっきから試してはいるのですけれど。意味の通った単語になるケースもありますけど…』
「けど？」
『何か違う気がするのです。もう少し、考えてみませんか？』
タイニィビート号でも同じような問答があったらしい。
「…あに考えるってのよお…？」
ぐるうりと寝返りをうつように空中で体を回す。これに意味なんかあるはずもないが。
『単純なことだ。このパズルには流れがある。複雑なものは複雑だが、簡単なものは簡単だ』
「…つまり…あれってこと？ これまでのパズルがってこと？」
『そうだ』
これまでに解いた「パズル」は二つ。
この星図を生み出した最初のパズルはソースコードを読むだけ、というものだった。しかし二つ目はチームフランカーを巻き込んでの複雑な単語の応酬だったのだ。そこまでして隠していたのだが…どちらも吐き出したのは言ってみればただの文字列である。
「まあ、たしかにね」
『今回のパズルを考えてみろ、マズルカ。辿り着くまではいささか時間がかかったが、重ねてしまえばそれまでだ。変な小細工もない』
「ってことは…」
ピピピ、とコンソールをいじくる。
「このままってこと？」
「…このまま？」
『はい。試してみませんか？ それほど時間もかかりませんし』
つまりは出てきたこの文字列をそのまま入力してみよう、ということであるのだが…。
「単純ねえ。でもやってみましょうか」
