「ダウンロード終了ですわ」
『ではさっそく実行してみよう…』
メインモニタ上でプログラムが実行される時のお決まりの電子音が鳴る。
「…ふーん、今のところは何も異常ないようですわねえ…」
お菓子をぼりぼり（もちろん飛び散らないような形態）。
『そうだな。…いや、しかし、待てよ…？』
「あ。あー…これ、ですかあ…うわ」
『ちょっと…ヤバいかも知れんなあ…これは』
その頃のマズルカ。順調？に進んでいる様子である。
もう半分ほどにまで泳ぎ着いている。そもそもは何回も何回も泳いできてた場所なのだ。早々間違えるはずもない…と思いたいのだが、極度のめんどくさがりでもある彼女が細かいところまで覚えているとは思えない。実際、後から来たエイブラの方が船内環境を的確に把握しちまって迷ってるマズルカを見つけ出した、なんてことは数限りない。こうなるとどっちが古参か分からないくらいである。
…ほとんど一本道みたいなもんなんだがなー…。
しかしフツーの一本道ではないのも事実である。タイニィビートは一種の「新古品」つまり売れ残り状態の新品で購入されている。その時は恐らくこんなにややこしい船内ではなかったと思われる。が…なんだかんだと装置や設備を足していくのは宇宙機では当たり前のことである。…無論、重量との兼ね合いも多いのでその辺は折り合いつけてやっていく必要があり、無制限に配管やら装備やらを増やしていい、というわけではない。軌交法にも規定があって、エンジン出力であるpsのクラスによってこれくらい、と決まっている。さらには船そのものの大きさや規模にもよって細かい規定がある。破っていることが判明すればそれなりに罰を受ける。
ただし。タイニィビートは貨物船である。そのため基本的に貨物室はいじれない。客船が客室を（表面的には）いじらないのとほぼ一緒である。
だからこういう連絡通路的な場所、というのは格好の餌食？なのでもある。…中には通路が正に迷路状態と言うツワモノがいないわけではない。そういう船で迷子になったら…その時はあきらめるか神の助けを待つしかない。
そしてマズルカ。これがエイブラかポルカを連れて来ていればもっと深い場所へのチェックも可能なのだろうけど。
「まー、こんなもんか」
ちらっと見ておしまい、とかそんな箇所もある。まあ、しかし、どうせ後になって補修に来るのは彼女自身なのではあるのだけれど。
『隔壁が開かないとこがある…？』
ちらり、と眉をひそめるケリー。当たり前だが異常時には船内の隔壁は全て降りる。作業部屋の時のように。ただ、今回は電源供給が不安定になっている関係上、降りている場所とそうでない場所があると思われる。
『それって作業部屋の時みたいなもん？』
「まー…同程度ですわね。ただ…」
『近場に圧縮空気はない…マズルカに気づかせるのは難しいな』
『…別にそれはいらんでしょ』
むすっとした声のセラ。
『自己診断システム上で発見された、ってっことでしょ？ ならもしかしたら開いてる可能性もあるってことじゃないの？』
「可能性としてはアリですわ。でも開いてない可能性ももちろんアリですの」
『そりゃそうだわね…』
『ポルカ。それどの辺？』
『キャビンから数えて三つ目だな』
「あー…それにポルカ様。他にもいくつかミスっぽいのが示されてきてますけど…」
メインモニタ上では赤いバッテン印がいくつか点灯を始めている。タイニィビート船内で何か不都合が起きている証拠で、新たな自己診断プログラムを導入した途端、こうなってしまった。…これが全部トラブルなのかどうか、そこまで判明はできない。しかし無視もできない。
『私が操作できるところは潰していく。…エイブラ、サポートを頼めるか？』
「あいさー」
『ちょ、それならマジーはどうなるの？』
『仕方ない。自分で何とかしてもらうしかないな。…どの道こっちからできることは、もう、ほとんどないのだが、な』
そのマズルカ。…正にカベに直面しているのであった。
「うげ。マジかよ…」
マジです。先に進めない…。
