いつの間にか何かデータファイルが送り付けられている。いくらこれほど大騒ぎしていても気づかないほど、ということはそれほど容量は大きくないということか。
「開けていいのね？」
『うむ。スキャンは終了してはいる。問題ない。ただししばらくお前一人でやってくれ。こっちは忙しい』
メインモニタではなくサブの小さなモニタの一つにその『問題』が移される。
「こっちでやれ、と」
『そうだ。…エイブラ、またコードのミスが出てきた。ああ、それからここの接続がだなあ…』
エイブラの不満に満ちた悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。そもそも本来なら彼女の就寝の時間なのだが、彼女自身の言う通り、この状況ではそうも言っていられない。
マズルカが『開けていいのね？』と尋ねたのには訳がある。
「…まーたコレかい…」
目の前のモニタには圧縮ファイルが一つ。
「そんなに大きくはないんだ…」
圧縮されているファイルだから、基本的に元のファイルより大きくはならない。基本的には。
「カギは…ない？」
解凍ソフトはもちろん入っているし形式も対応しているから即座に解凍できるのだが。
「うーーーーむ…」
腕組みなんぞしながらくるりと後ろ回りに一回転。
「開けてみっかなあ…」
考えていても仕方ない。思い切って解凍開始指示を入力する…。
「…って、なんじゃこりゃ」
「どーしましたー？ お姐さまー？」
こっちはこっちでメインモニタと二枚のサブモニタとにらめっこの最中のエイブラ。
「あはは…なんか変なファイル…あー、テキストファイルか、これ」
「じゃあ、読んでご自分でどうにかしてくださいな。どうしてもって時にはなんとか…うだー！ あー、もうなんじゃこりゃ！」
激しく鍵盤を叩く情熱的なピアニストのごとくコンソールを叩きまくる。これくらいで壊れたりしないもんなのではあるが。
「…忙しそうだわねえ」
ぼそっとつぶやく。こんなことエイブラに聞こえたら噛み付かれて振り回されそうな勢い。だから小さな声なのである。
当面の問題は目の前のファイルである。文字が記載されただけのテキストファイル。だから載っている文字を読まないと始まらない。
「た…た…た」
意外と長いのだろうか。ずずずっと下まで移動させてみる。
「た…た…た…た？」
「た…た、ねえ…」
ふうむ、と考え込む。何が書かれてあるのか、と言うと…。
「お姐さまー？ 何か分かりまして？」
相変わらず視線はモニタから外さない。
「うーん…えっとねえ…た、って何か分かる？」
「た？」
『た、がどうかしたのか？』
ポルカも気になったらしいのだが…。
「た…た？」
『だから何なのだ？ た、がどうかしたのか？」
「た？」
「ちょっとお姐さま、失礼しますわよ？」
エイブラがすすっとマズルカの前に泳ぎ出てサブモニタを見る。
「…た」
「た？」
「…た、ですわね…」
同時にポルカも確認したらしい。
『た、だな…』
マズルカの前にあるのは『た』の文字だけが載っているテキストファイル。正しくその一文字だけが真っ白な背景の上に浮かんでいる。
