…他になんかないかなあ。
ふと、思いついたのは小包とかそういう送り方である。中身はもちろんだがその外側にも色々あったりする。
通信販売で何か頼んだとしてその「物」が中身として送られてくるのは当たり前である(なお、軌道上やこういった航路上から頼んでも意味がないことも当たり前である）。しかしむきだしのハダカのまま送られてくることはまずない。中身を包む箱なり何なりも同時に送られてくる。
…そういうのは…ないか…。
この場合の「外側」は送られてきた圧縮ファイルということになる。解凍しても残るからこっちからどうにかしよう、とかそういうこともできなくはないのだが…。
「…分かるか、そんなもん」
マズルカから見ればただのモニタ上のアイコンである。それ以上どう見ても「何か」がありそうには見えない。
圧縮ファイルそのものに仕掛けをする、ということは十分に考えられることではある。
が、マズルカが放り出したのにはあるわけがある。
…ちっちゃいんだよなあ…コレ。
何か仕掛けをするには容量が少なすぎるのである。「圧縮」ファイルだから元のファイルより小さくなるのが原則と言えば原則だが…ファイルの種類や状態などによってはそれほど変わらない場合もある。今回のコレはほとんど容量などないに等しいファイル。圧縮しようが何しようがそれほど変化はない。
…もっとも、こういう状況で圧縮ファイルを用いる目的の一つは「カギ」を付ける、ということでもあるのだが…別にカギも何もなかったのだから、こっちもやはり意味はなさそうである。
…機械的に圧縮したってことなのかなあ。
つまり「コレはこういうもんだ」ということで容量なんぞ関係なく、流れ作業のように圧縮して送信した、ということなのかも知れない、ということである。もしそうなら結構アバウトな送信元、ということになるのだが。
…でもあんだけワケわかんないナゾ組み込んでくるし。
ポルカが指摘したように一定のルールめいたものまである。今回はどうだか分からないが。
…アタマいいのが送ってきてるってことか…。
そう考えるならこの「圧縮する」という工程すら何らかの意味を持っているのかも知れない。
…わっかんねー…。
「お姐さま、大分参ってますわね」
『そりゃそうだろう、元来ああいうことには向かんからな、あれは』
エイブラは相変わらず忙しそうだが（ポルカも例の筒に収まっているが活動を示すランプの点滅の速さが尋常ではない）ちらちらとマズルカを見る余裕くらいはある。あー、とか、うー、とかうめきながら頭をかきむしるマズルカを、である。
「意外とヘンなとこで冴えてらっしゃるんですけどね、お姐さまって。…あ、このブロック終了ですわ」
『たしかにヘンなとこで、だな。…ようやく1ブロックか』
「でもそのヘンなとこでどうにか…あら。こちらへ回しますかそのブロック？」
『何度かそのヘンなところでどうにかなったことも、だな…何、次もその次もブロックはまだまだたくさんあるぞ』
「ヘンなとこがお姐さまのいいところなんで…あはは、そっちのブロックの方が構造単純ですわねえ、ポルカ様」
『ヘンなのは昔からでな…何を言う、さっき送ったブロックの方が組成そのものは単純だぞ？』
「やっぱヘンですわね…組成だけではなく全体の構成量が尋常ではありませんわ？」
『そりゃあ、ヘンだが…作業量自体はそれほどでもあるまいに』
「じゃあ、ポルカ様がご自身で」
『ここはやはりお前の出番だろう？』
ブロック、とは作業するエリアがあまりに広くて漠然、としてきたのでポルカとエイブラが暫定的に作業を区切った一種の「作業単位」のことである。1ブロック分の作業が終了すれば一区切り、といった風に二人（一人と一個）で分けていったはずなのだがどこかで歯車？が狂ったらしい。
作業するのに楽そうなブロックを自分のところに置いて、キビしそうなのを相手に送りつけながら会話していたのである。
…よーやるよ。
静かな火花を散らしながら作業している連中を尻目に、マズルカは一人である。
さて。航路上でそんな騒ぎになっているとは露知らず、の惑星上。
ジルバとて自分の組んだプログラムのことぐらい十分に理解しているのだが、まさかそんなことになっているとは思っていなかったらしい。タイニィビート号が惑星上に降りることはない。同時にジルバが軌道上に上がることはない。実際の機体に触れてこなかったからなのか、それとも無自覚のうちにやや厳しく組んでしまったのか。
その辺はやはり分からない。
