「…あいつらうまくやってるかなあ…」
『大丈夫ですよ。兄様がいるんですから』
「そうだといいんだが…定時連絡までもうじきかあ…」
『エイブラ！ こっちのこのブロックを頼むと言っただろう！』
「何をおっしゃいますポルカ様！ 私はこっちのブロックで手一杯ですわ！ そもそもあと何項目チェックすれば…あーもう、また増えちまいやがりましたわ！」
『まだ次にもいくつも控えているんだぞ！ ったくこの不具合はいつ最後のが出てくるんだ…！』
「分かってますわ！ こーの÷ΣΦξ£ゞ〓〓※野郎があ…わっけわかんないチェックばっか、ほんっと滅ぼしますわよ、いいかげんにしないと！」
「…大変そうだわねえ…」
蚊帳の外というやつである。実際のところは彼女があっちにいたって何の役にも立たないのではあるが。多分キレたエイブラに追い出されるだろう。
『だからこっちを先にやってくれと言っているだろう！』
「はあ？ ポルカ様こそこっちやってくださいよ！」
青白い火花がばちばちと激しく散っているのである。ちょっと向こうでは。こっちはひんやりと冷えた空気だけなのだが。
もちろん状況だけ見れば小柄なエイブラが宙に浮きながら独立式のコンソール…平べったい板のような操作機器…を持ってぐるぐるあちこち周りながら悪態ついているだけ、ではある。もちろんポルカの声はマズルカにも届いている（スピーカーの全てはポルカが握っているのだし）だが…なんだかこっけいな芝居に見えないこともない。
なんで彼らがこういうことになってるか、ということを考えればそんな悠長なことは言ってられないのだけども。
「でもこっちはこっちのことやるしかないかあ…」
…そう言えばナゾのファイルもあったっけ。
前のナゾを解いた時に出てきた不明拡張子のファイルである。これまでの流れからすれば圧縮ファイルで、これにパスワードぶち込めば何らかのアクションが出てきて、それからまた違うファイルが…というもんなのであるが。
「あ。そっか…」
この「TA」がパスワードなのかも知れない…？
しかしパスワードを放り込むためには「これはカギが必要なファイルなんですよお」ということをコンピュータに認識してもらう必要がある。あるいは「コレは圧縮ファイルですよお」という認識でもアリかと。いずれにせよこの不明のファイルの正体が分からないとどうしようもない。
今は「コレ不明だよん」という無機質なアイコンで示されているに過ぎない。
…ふうん…？
拡張子の変更でもしてみようかな…？
とは思ったのだが、過去に似たようなことやってポルカに激怒されたこともある。画像の拡張子をとあるアプリケーション用の拡張子に表記上だけ変更して…何も起こらないからそのまま放置していたらポルカがたまたまそれを読み込んでしまって…ということである。だからむやみやたらと変更するわけにもいかない。
しかも表記上だけ変更したって何の意味もないのである。
…どうしよっかな…。
『また出てきたぞ！ エイブラ！』
「呼ばれても何もできませんっつーに…ああもうなんじゃこりゃあああ！」
『おーーい、タイニィビート…聞こ、える、かーーー？』
脳天気にも聞こえる、やけに間延びしたジルバの声がカンパニーコールから聞こえてきたのはそんな時だった。腹立たしいほど場違いな声である。
『定時連絡だあ…えっとなあ…自己診断プログラム、うまく、いってるかー…？』
「うまくいくわきゃないでしょうに、このトンチキがああ！」
『もうすでに診断、終わってる、と思うがーーー』
『何を根拠にそんなこと言ってるんだ！』
『自動診断実行プログラムあるから、なーー…あれ、実行すりゃ時間はかかるがー、チェックからー、修復までー、全部自動でやってくれるーからー…それで終わりだーー。もし、それでも、なんか、不都合が、だなー…』
…自動診断実行プログラム…？
二人（正確には一人と一個）の動きが止まったのは言うまでもない。実は悪鬼のような顔をしてまで手動でやる必要なんか全然なく。ただ、付随してきていた「自動で診断を実行してくれるプログラム」を実行すればいいだけ、という…。
『先に言えー！』
というむなしい言葉がキャビンに響き渡ったのは言うまでもない。
