「なんかあったの？」
『いや…誰かいたような気がしてな』
「あのバカが起きてきてたんじゃないの？ 喉が渇きましたわ、とか何とか」
『…いや、ふむ…？』
「アレは…どお？ どうなった？」
『アレとは何だ？』
「モニタ」
言ってしまってからポルカには知らせてなかったことに気付いた。が…。
『二人で何かやってたアレか。勝手なことをするものだ』
「へへ、まあね」
『全く…何やら文字列が流れていたが…』
「？」
『？』
あれだけあった文字列が、ない。
正確にはゼロになったわけではない。一行だけ何か書いてある。…それだけである。
「…うふぁふあ…？」
『UFAFAAA』
「何の意味よ」
『知らん。何かの暗号…いや…』
ちょっと考え込んでいるようにも見える。緑色のランプが何度か点滅する。
『次の…ヒントか…パスワードか？』
結局のところよく分からない、ということになる。あれだけあった文字列が消えて意味不明の単語（略称か何かも知れんな、とはポルカの言）のみになってしまった。そしてさらに疑問が湧いてくる。
『誰がこれをやったのだ？』
いくらポルカがビジー状態だった、とは言えモニタの状態くらいは把握していたのだ。こっちから何かすることはできなかったようだが。
「え、あんたじゃないの？」
『できるわけないだろう』
そりゃそうである。
「となると…」
「あー…喉が渇きましたわ。ちょっと失礼…」
と、なんだかどっかの予想通りの反応しながら入って来るこの娘。
「…どうかしましたの？」
密封容器のコーヒーを口に含んで、ごくり。
「どうかって言うか。あんた、ちゃんと寝てたの？」
「ええ。さっきまでぐっすり。やっぱり疲れてますわねえ」
『何者かがモニタを操作していったようなのだ』
「…は？」
弾けるようにモニタの前に。壁を軽く押すことで結構な速さで移動できるのだが…すごい勢いではある。当たり前だが惑星上では不可能である、こんなのは。
「え？ え？ ええー？ これ、何ですの？ あれだけあったのに…お姐さまですの？ ま、いつの間に…」
「ちゃうわい。あたしにそんなことできるわけないっしょ？」
「あ。そうですわね。ポルカ様はビジー状態でしたし…」
『お前でもマズルカでもない、とすると自動生成か何か、と言うことか…？ 最後まで解凍すると自動で、とそういうタイプだったのか…？』
「…船内カメラはどうだったんですの？」
「…あ」
いくらポルカがビジーだった、と言ってもキャビンを映し出すカメラは健在である。これは軌交法に設置が定められてあって、事故などの時に重要な資料ともなる。そのため高度なセキュリティが施された一種アンタッチャブルなケースに収められてあるが、アクセスしてモニタに映し出すことは可能である。
可能なのだが…。
「えっと…」
常時操縦席と機長席付近を映すことになっている。メインモニタ前はもちろん、全部のサブモニタの前も、全て。誰かその前を漂っていれば記録される、のだが…。
「誰もいないじゃん」
マズルカがキャビンを出て行った様子まではきちんと記録されている。しかし…その後入ってきたのはマズルカ。つまり、彼女が出て行ってからは誰も入ってきていない、ということになっているのだ。
