「じゃあ…今度こそ偽装？」
『偽装って何のために？ ねえ、マジー。偽装なんて誰かが何か得するためにやるもんよ？ 普通？』
それなりの技術があればアマチュアでも通信の『偽装』は可能である。惑星上など、いくらでも電波のあふれている状況なら学生程度でも可能で、実際に時々そういった事案…ただのいたずらとも言う…は起きている。本当に重要な通信なら暗号化などの対策が施されているのが当たり前だから件数は一気に減る。そうなると可能な技術持ってる連中、というのは限られてくるものではある。
が、わざわざ惑星衛星間航路をぶっ飛んでいる宇宙機に『偽装』かます、となると…それなりの技術はもちろん、相応の技術では足りない。そんなスゴイ技術持ってるなら他のことで『得』した方がいいだろう、というものである。
『で、一体どんな通信なんだ？』
画面の向こうからルークが身を乗り出してくる。
『音声通話か？ なら録音しておいて出てみたら…』
『データ通信だな、これは』
「でーた…つーしん…」
『ほう？ いつの間にこんなファイルが？ 極小にまで圧縮？ やるな、この程度の容量変化ならちょっと気づきにくいな…』
…なーんかイヤな予感がする…。
似たような軽快な電子音。今度は…
『あ。こっちにも通信来た…発信元は…ワイヤ・テラー207号』
「…やっぱり」
『もちろんデータ通信。なんかね、変なファイルが送られてきてる』
「やっぱりか…」
すると今度はタイニィビートで軽い電子音。
『もしもし？ マズルカ？ なんか妙なファイルが送られて来たんだけど…これ何？』
画面を二分割。右には考え込んでいるケリーが。そして左には口調は明るいものの、かなり不機嫌そうなセラが映る。
『なんかの嫌がらせ？ ねえ、何のつもり？ 説明してくれる？』
「今回はぜんいんまきこむ気かーー…」
思わず頭を抱え込む…マズルカ。
『まあ、落ち着きなさいな、セラ。どうせヒマだったんでしょ？』
『そうでもないわよ！ あのミヒャエルのバカがまーたミスってさ。あーもう、あの子なんで操船技術はあんだけあるくせにマニュピレート技術はあんなにクソなのよ！ 操作的にはそんな変わんないってのに一体どこをどうやったらあんなとんまなミスかますのか、ちょっと分かんないわよ！』
うがあ、と画面向こうで突っ伏したりしている。…よく見ると画面奥でこそこそしているミヒャエルがちらりと映り込んでいたりして。
「…アリは？ あの人一流じゃん」
『ちょうど交代時間だったのよっ！ 察しなさいよっ！』
どこの船でも乗員は交代制で休むものなのである。
どうやら経験豊富なアリが休んでいる間に急ぎの作業をミヒャエルがやって失敗した、ということらしい。
『なーにがおいらに任せとけ、大船に乗ったつもりで、っつーのよ！ 結局わたしのやること増えちゃったじゃないのよ！』
「荒れてるなあ…」
『そんな時になんであんたのとこから通信とか入って来てんのよ？ しかもワケ分かんないファイルだし！』
『あー、それね。今こっちでも問題になっててさ』
半分くらい悟ったような穏やかな顔（表情消してるとも言う）のケリーがひょいひょい、と小さく横に手を振って見せる。ホープフルはもちろん、カルスのフランカーでも通信画面を分割するか増やすかしていれば三者同時に通信できるから、こういった仕草は他の二船でも見ているはずである。
『問題？』
『こっちにも来てんの。あんたのとこからってことで』
『何も送ってないわよ？ いいかげんなこと言わないでよ…そんなことする時間もなかったってのに』
『あんたのとこにもマジーから、ってことで来てんでしょ？ それと同じ。マジーも知らないってことだし』
『ホントに？』
うなずいて見せる。
「まー…大体見当つくんだけどね」
『そうだな』
「多分アレね」
『ああ…間違いないな』
そりゃあもう、あれだけ付き合っていれば分かるというものである。
