「死ぬかな…ミヒャエル」
『そうね、死ぬわね。…いい奴だったのに』
『これは死ぬな、ミヒャエル』
ポルカのやれやれ、と言った声。身体があれば両手を肩辺りにまで上げていそうである。
『まだ生きてるわい！』
でも無事ではなかったんだろう…というのが皆の意見でもある。何か圧し潰したような細い悲鳴が聞こえた後、戻って来たセラの顔が100%超えて300%くらいの笑顔だったのだ。
そのセラはその笑顔を引っ込めてちょっと真面目な顔になってみせる。
『…で？ マズルカはもっと詳しい情報持ってんでしょ？』
さっさと出しなさいよ、といった風情。足を組んで腕組みなんぞして見せているが、この姿勢も無重量下ではかなり無理のある姿勢となる。最も安楽なのは座らないのはもちろん、何かにつかまったりせず文字通り周囲の状態に身を任せて漂うように浮かぶことだったりする。
『ねー？ 前に言ってたもんねー、マジーは』
こっちのモニタの向こうでは逆さまになってるケリーの脱力しきった顔がある。上（キャビンの天井方向）に腹向けて浮かんでいるのである。もちろん直立不動でお行儀よく？浮かんでいるわけではない。が、こういう姿勢が最も楽なのである。
「んー…あるって言うか、ねえ？」
『そうだなあ…』
「えっとね、これまでにも何回か送って来られてたのよ、うん」
『ああ、前に聞いてきた…何だっけ、映画かなんかの話だったっけ？』
「そう。あれからも何度か…ね？」
『うむ』
『ねえ、ちょっとマジー…』
今度は非常にまじめな顔のケリー。
『なんでそんな面白そうなこと、話してくれなかったの？ いっぱい来てたんでしょ？』
旅客機ならともかく。マズルカたちのような貨物機ではよほどのことがない限り惑星−第二衛星間航路クラスの長距離となるとかなり時間が余るものである。中にはこの長い時間を使って副業にいそしむ者もいるとか。ただし、あくまでも「ヒマつぶし」なのである。場合によっては取り返しのつかない事態になる可能性もある航路上である。惑星上や軌道上のように何かあっても他からの助けがまず期待できない。
その場でありあわせの技術や技能駆使してどうにかこうにか場をしのぐことも多い。もちろんそうならないことが一番なのだが…事情が事情の場合、仕方なくそうなることも多々あったりする。
そんなこともあり得る中「他のことやってました、テヘ」とか言って本業がおろそかになると…これは非常に重いペナルティを課せられることになるのはこの業界では当たり前だったりする。契約によってペナルティの内容は様々だが、一般よりもはるかに重篤なものばかりである。
…とは言っても。
『だってヒマだったんだもん…』
やることがない、というのはどうしようもないものである。重量の発生しない電子的な娯楽というのは充実していて（それこそ映画とか…）相当数常備しているものである。しかし人間というのは面白いもので大抵の場合アリモノだけでは満足しなくなる。それ以上を求めてしまうものなのである。
「いや、なんか…ね、どうもうさんくさい内容だったし」
『そうだな。わざわざあれ以上よその船に知らせることもあるまい、と。済まなかったな…そういうことならもっと早くに詳しく説明しても良かったのだな』
『わたしは別にそんなにいらなかったんだけどね』
と、セラ。
『いいじゃない、面白そうなんだから』
『はーーー、お気楽でいいわね、ケリーは。…で？ どうしたらいいの？ こういうのが来たら？』
「大抵の場合はカギ付きの書庫ファイルなのね。そこへパスワードを放り込むと…また次が出てくる感じ」
今まで何度も何度もやってきたアレである。
『じゃあ、今回もパスワード探す感じ？』
「…と、思うんだけどねー…」
違和感を感じているのはポルカ。
『…今回はちと違うかも知れんのだ』
『どういうこと？』
『三船同時、というのが気になる。わざわざ分けた？ なぜ…？』
