『…それってヤバくない？』
「ちょっとね…一人減るみたいなもんだし」
『そうじゃなくて。ポルカって実質タイニィビートの制御システムみたいなものでしょ？ それがダウンしてるってことに…ならない？』
「ですって、専属エンジニア？」
「誰が専属エンジニアですか、誰が」
ポルカは見た目はただの腕輪で、特定の端子などは見当たらない。が、実は一か所だけ隠しトビラ的にフタがついていてそこから繋ぐことはできる。あれこれひねくり回していたエイブラがほとんど偶然のように発見して、今まさにそれを調べている最中だったりする。
「誰かさんが何もしないし何もできないからこうなるのですわ」
小指の先ほどもない、小さなフタである。天井の照明にかざしながら…端子を調べている。
「いや、まあ…否定はしないけど」
『しろよ』
『全く頼りない船長だこと。これじゃあんたも大変ねえ、密航者？』
「あら。口だけで結局動かない置物みたいなのよりは爪の先ほどくらいはマシ、というものですわ」
端子の形状は…と拡大鏡を引き寄せるエイブラ。コンソールにそんなものが常備されているわけではなく、壁の一部に三段階アームごと収納されていたりする。取り外すことも可能だが、細かい作業には固定しておいた方が何かと便利ではある。目の前の大きなレンズ状のそれを覗き込む姿は…まるで熟練の作業師のようでもある。伝統工芸とか微小なパーツ作成とか。
『ほ、ほーん…言うじゃない小娘が』
「若いっていいですわよお…おほほ」
この二人、おしゃべりタイムなどでかち合うと大抵こんなもんだったりする。だから他の連中も「またか」という顔になる。
『でも…ほんとに大丈夫なの？』
ただ、こちらは本気で心配してくれているようではある。
「ま、何とかなるんじゃない？」
「何とかしないといけませんけど…ねっ、と」
拡大鏡で調べていたエイブラが、よ、とやや力を込めて工具を動かす。
「大丈夫？」
「…あんまり見たことのない形式ですけども…なんとかなりそうですわ」
「いや、そうじゃなくてポルカ壊さないでよ？」
「はん。そこまでヘマはしませんわよ？」
手近のコネクタから有線で接続させるつもりらしい。いくつかアダプタをかまして何とかつじつまを合わせて…接続している。
『じゃあ大丈夫なのね？』
「多分ね。…今んとこと船内にも問題ないし」
船内状況のチェックくらいマズルカにだってできる。状況図があるからそれを見て、赤く表示されている箇所があればそれを正しに行けばいいだけである。…全部緑色の問題ナシ表示になってるので、このぐーたら船長にやることは、ない。
『…でも今後が問題ねえ…』
『そお？ 何とかなりそうじゃないの』
お気楽だなー、と通信聞いてたほとんどの者が思うほどの軽い口調。そして誰もツッコむ気もない。一番口に出す専属エンジニアはそれどころではないし。
『突発的になんか起きなければさ、いいんじゃないの？』
『せんちょお…そういうフラグはやめてやりなよ』
『何よ、フラグって』
『映画じゃそういうセリフの後に大抵何か起きることになってんの』
工具箱抱えたまま、はー、とため息をついて見せるミヒャエル。
『何が起きるってのよ？』
『知らね。こっちは忙しいんだから…マジかよ、アリ…そんなとこにそんな不具合とか見つけてくれんなよ…』
ぶんぶんと首を振りながらゆっくりと画面から泳ぎ去っていく。
と、タイニィビートの照明が一度…落ちる。そしてまた点く。
「な…何？」
「…うーーーーん……？」
エイブラのヘンな声が妙な感じでキャビンに響く。
