画面の中の…つまりは録画されているジルバは落ち着いているように見える。
『あーーー…ごほん。とーりあえず大変なーことになったわけだがー…』
なお、なぜか彼はこういう場では語尾を伸ばしたりする妙なクセがある。しかしそれも今回ばかりは心なしか短く伸ばしているような気もする。
『手短ーに言うとだな、何が起こるかー、こっちでもちょっと分からん。分からんもんをーどうこうやってもしゃーない、と言うもんだー』
『んまあ、たしかにね』
『マジーみたいな言い回しね』
ちなみにこちらの二船にも録画映像を飛ばしているので皆が同時に視聴できる。ただしメインモニタ上の分割画面が三つに増えているから見にくいことこの上ない（もっと火急の緊急時になればもっと増えることもあるのだが）。
『そこでー…だ、一時的にー、サルサのシステムの一部をー、コピーしてそっちへ送る、とそんな風にしてみたー』
ぺらり、と手元の資料と思われる紙を…
『…ん？』
『どうかしたの？ ケリー？』
『見間違いかなあ…？』
『15に分割してー…ぞれぞれを暗号化してーそっちへ送るー』
「たしかに。直接あっちと接続するよりはセキュリティ的にかなりマシですわね。その数まで分割すれば送受信もスムーズになりますし…ポルカ様を分割・暗号化してあっちへ送信するよりも効率良いでしょうし」
『当たり前だがーサルサ全部をそのまま送るわけではないー』
「そりゃそうよね」
『機能限定版とー思ってくれー…応急処置的なーものだー』
そこで一旦ジルバは身体を横へ向けて画面から少し外れる。他の資料を取り出しているのかも知れない。
「なるほど。一時的に似たシステムを導入させて対処させる…と」
ぺろり、と舌で唇を舐めてみたりする…エイブラ。
「さすがジルバ様ですね。それは思いつきませんでしたわ」
『それからー、暗号だがー』
「ふむふむ」
『これからスクリプト組んで相談、と言うわけにもいかないのでー』
「…まあ、たしかに」
『てきとーにありそうなのかましとくからー、そっちで何とかしてくれー。いじょー、なお送信開始は1時間くらい後だー…よろしく頼むー』
そこで録画は終わる。
「は？」
一気に眉間にシワが寄るエイブラ。
「てきとー？ かましとく？ そっちで何とか？ 汎用の暗号だけで一体どんだけあると思っとんじゃ、コラァ！」
壁でも蹴り飛ばしそうな勢い。もっとも、そんなこと本当にやったら自分の体が逆に吹っ飛ぶ。
『そんなに分かりにくい暗号かましてくるわけないじゃない』
「分かりませんわよ、そんなの。あーーーもう、例のアレだけで手一杯だってのにまたぞろ暗号ですか、あーーーーーもーーーー！！」
ひと暴れありそうなので、文字通りちょっと身を引くマズルカ。…と、ちょっと気になることが出てきた。
「ケリー？ なんか静か…ね？」
分割モニタの中のケリーは視線をやや落として…何か考えている顔。
『ねえ、マジー』
「ん？」
『あんたんとこ…誰か新人とか入った？』
「んにゃ…？ そんな話は聞いてないけど」
『録画…ちょっと再生できる？ ジルバがサルサの一部をコピーして送る、とか言ってた辺り』
それくらいの操作ならマズルカにもできる。録画を再生して…これくらいかな…と。
『…一部をー、コピーしてそっちへ送る、とそんな風に…』
『そこ。ちょっとポーズかけて』
ピ、と止める。
『ね、これ…誰の手？』
ジルバが手元の紙をめくる瞬間である。が…そこへわずかに、だが…明らかに別人の手の先が写り込んでいる。
