マズルカ・マズルカ The "6th" Day page 21

　…なんだかなあ…。
　ちょっと気にはなったのだけど。でもまあ、とりあえず問題は解決？したことにはなる。これで妙な音はしなくなるだろう。

「あら。お帰りなさいませ、お姐さま」
　キャビンに戻ってみると。エイブラがメインモニタの前で縦に一回転。
「起きてきたの？」
「ええ。気になったものですし…もう大分休ませて頂きましたし」
　顔色も悪くない。軽く頬に触れてみると、ぽよん、と指を弾き返してくる。目の下にクマでもできていそうな感じだったのだが…それももうないようだ。
「うん。よしよし。いいじゃない」
「はあ」
「じゃあ、今度はあたしが寝る番ってことで…」
　そそくさとキャビンを後にしようとして…
「お姐さま…」

「まさかこのままお休みになるつもりじゃあ…ないですわよね？」

　メインモニタにはすでに残りの書庫ファイルが全部揃っている。全ての受信作業は無事に終了していたのだ。ということは…
「早いとこ残りを解凍してくださいまし。でないと何もできませんわよ？」
「いやー、ははは。まあ…その、ね？」
「まさかとは思いますが」
　今度は横向きに回転して…ちょい遅めの一回転…額に指先をあて、少しうつむいた表情。下からマズルカの顔を見上げるような状態。もちろん、その目は冷たいことこの上ない。例えるなら…そう、楽しみで獲物をなぶり殺そうとするネコ科の瞳のごとく。つまりは多少の「愉悦」も含んでいる。
「マスターパスワードを忘れた、とか言わないですわよねええええ？」

「一つは覚えてる。うん、覚えてる」
「そりゃあ、そうですわよね。一つは解凍されてますから」
　メインモニタ上には書庫ファイル14コと解凍済のデータファイルが一つ。
「しかし残りも解凍して頂かないと。でないと…」
「分かった。分かったから。うん、落ち着こう、うん、落ち着こう」
　下から見上げていたのがいつの間にか上から見下ろす状態になっている。精神的にも物理的にも優位に立っている…。

「私が見てるわけにはいきませんので」
　くるっと後ろを向いてしまう。たしかにいくら同じ船に乗っているからとは言っても機密は守られるべきである。
「さあ、さっさと解凍をお願いしますわ」
「うえい…」

　…何だったっけなあ…。

　それから。
　マズルカがもう一つのパスワードを思い出したのは自分が寝る時間とほぼ変わらないくらい経ってからのこと。つまりは当番の時間ぎりぎりまでかかったことになる。

　メインモニタには15コのデータファイル。今度は暗号化されているこれらを解読していかないといけない。ただ思い出せばいい、というものではなく。これまでの謎のパスワード解析にも似た…いや、実際にはもっと大変そうな作業となりそうな…。
「さて…これからは私の番ですわね」
　ふむ、と腕まくり。もちろん何の意味もない。
「じゃあ…あたしはこれで…」
　むんず。
「まだまだ早いですわ…少しは手伝って頂かないと」
　にまあ…。

　本当に寝不足のマズルカと少しは寝てるけど実際には寝不足みたいなエイブラの取り合わせである。その場が怒号と混乱渦巻く狂乱の場と化すのに大した時間は必要なかった。…定時連絡入れてきたケリーがそんな場を収めようとルークを起こし、さらにはチーム・フランカーの面々も無理やり招集され…三船が暗号解読に向けて一つになった、のである。
　…そんなカッコいいものではなく。マニアックな暗号まで何とか解読して…ようやく結合が終了した頃には皆、へとへとになってしまった…。