がん、と大きな音がして頭を下に縦に一回転…
「言わんこっちゃない！ エイブラ！ エイブラって…？」
モニタの向こうに現れた顔を見て。思わず目をこするセラ。後ろで機器のチェックしていたミヒャエルの袖を引く。
「？ どしたよ？」
「ちょ、ちょ…っとこれ見て。いいから見て」
なんだよ、何の音だったんだよ、とモニタをセラの頭の上から覗き込む…
そこには頭を押さえて小さく唸るエイブラの姿がある。
それ自体はさほど問題はないのだが。ないのだが…どこか恥ずかしそうに見える。
「…誰だよ、この子？」
「エ、エイブラでしょ…それしかないんだから…」
ふ、と顔を上げて（もちろん上目遣い）さっと視線をそらす。
『ご、ごめんなさい。ちょっと、眠くて、いいえ、大丈夫なんです…』
「……」
「………」
『お姐さまが起きてらっしゃるまで私が頑張らないと、ですわね！』
軽く握りこぶしを作って、小さく力こぶを作る真似までして見せる。ふん、とかすかに息を鳴らすのも忘れてはいけない。もちろんそれは大きく噴き出すような音ではなく。軽くかすかに聞こえる程度のちょっとしたもの。
『お二方には大変にお世話になってしまいました。もう大丈夫ですわ、ありがとうございます』
「あーーー」
普段のエイブラなら絶対吐かないようなセリフである。もし吐いたら問答無用でセラがツッコミ入れるところである。
「いえ、あの、その…なんのお構いもできずに…」
『いやですわ、ミヒャエルさん。そんなに他人行儀で…おっかしい』
口元にこぶしを添えて…にこり。
「…おい、何だよあれ」
「わたしに聞いても知らないわよ」
「見た目はそのまんまだぜ？」
「だからなんかあったんじゃ…って、エイブラ？」
画面の中の美少女？は手元のタブレットを操作しようとして…
『あ』
手にしたタブレットを、つるり。そして…。
「ちょ、エイブラほんとに大丈夫？」
『あーもう、何ですの？ やっぱりちょっと本調子じゃないですわね…ったく』
…戻った？
…戻った。
『どうかしたんですの？』
「あ、いや…その、エイブラ？」
『？何ですの？』
「その、ね…あんた一体…」
「いや」
セラの耳元でミヒャエル。
「なんだかまだ事情がよく分かんねーし…黙っといた方がいいな」
「ぶつけたとこは大丈夫？」
『ええ。これくらい何ともありませんわ』
と…手にしていたタブレット端末を有線でコネクタに繋ごうと画面の下の方へ…。
がん。
「またぶつけた？」
しかしそこへ浮上してきた人物。…その目は…いつものエイブラではない。
『さて…どうするかのう…？』
