「……」
『………！』
「……」
しばし無言で向き合うセラとエイブラ。
『さてさてお嬢様方。ご機嫌はいかがですかな？』
…なんかどんどんヒドくなってきてますわね…。
『な…なんなの…ソレ？』
「コレですの？ これは…ただのうざったいおしゃべりスピーカーですわ」
『妙なの…作ったのね…』
なお。こういうのは惑星上や軌道上なら通販などで『妙なの送ってもらったのね』になりそうだが、そういうものが一切期待できない衛星航路上では『作る』のが当たり前となるのは言うまでもない。
「まあ…そうですわね。できちゃったと言うか何と言うか…」
『さあ！ 人生を謳歌しようではありませんか！ お嬢様方！ さあ！ 歌うのです！ ら・らーらららー、ららーら！』
澄んだアルトの高音域が伸びやかに爽やかに響く。憎たらしいほどに。
『…ツブしたくならない？』
画面に顔を近づけて、口元にてのひらも寄せてくる。
『こう…ぶちっ、と』
「そりゃあ、もう」
こちらもメインモニタに顔を近づけていく。…これも当たり前だがあまり意味のない行為ではある。気持ちは分からんでもないが。
「基盤引っこ抜いて物理的に滅殺したいほどに』
『やや。いけませんなあ…マイハニー』
ちちち、と大げさに指でも振るところなのだろうけど、あいにくとそういう機能までは、ない。
『そんな物騒なことを口にしては、い・け・ま・せ・ん・な・あ〜？』
『…わたし、惑星上で何度かサルサに会ってるけど、ちょっと違いすぎない？』
『らららー、違う、違う、ちーがーうー〜！！！』
「全部は無理、ということで一部だけをこっちに飛ばして頂いたので…その辺でどこかに不具合が出たのかも知れませんわ」
『ふぐ、ふぐ、ふ・ぐ・あーいーーーーー！！』
『もう一回送ってもらったら？』
『も・もーういっかい、いっかーいーいーいーーーーー』
『ね？』
ぴくり、と眉をひそめて見せる。…こちらも相当キているようである。
「いやいや、あの手間考えたらもう一回というのは…ちょっと」
『ちょちょーっとちょちょちょ、わたしはー、ちょーうちょーーーー』
『じゃあこれからずっとコレと付き合ってかなきゃなんないってわけ？』
「正直これ以上の手間は…ちょっと。色々あって手が離せなくなってるのは事実なのですわ』
『そう。わたしはー、野に咲く一輪のー、はー、なーーー！』
「その花は仕方ない…って、いい加減にせんかいこのど腐れスピーカーがあ！」
壁を蹴った反作用でくるくる回り出すエイブラ。
「…うげえ」
なんとかそこらを掴んで身体を安定させ、軽く頭を振っていたりする。
無重量状態でいきなり身体を回転させるといわゆる『酔い』状態になりやすい。もちろん体質にもよるが、熟練した人員でも油断すると一気に『目が回る』状態に陥ってしまうことがある。…もっとも、いつまでもそんな状態が続くわけでもないので…身の安全を確保しながらしばらく身体の動きを停止させておけば問題はない。
エイブラもそれを知っているから…バカなことしたものですわね、とか思いながら…しばらくそこらの壁にしがみついたまま、呼吸を整えるようにじっとしている。
「ふう…」
『…大丈夫？』
「ええ、まあ…」
『気持ちは分からなくもないけどね』
「はあ…」
ちなみにこの間もずっと『ららら』だの『さあマイハニー』だのが続いていたのは言うまでもない。…そこへ
「おあよー…なんか…賑やかねえ…」
とさらにエイブラをイラっとさせそうなのが起きて泳ぎ出てきたのだった。
