「これでここは完成…っと。大規模メンテの必要もないようですわね」
コンソールのタッチパネルに指先を滑らせる。
「いくつかメーカーにお伺いを立てたいところもありますけど…まあ、それは第二衛星到着時でも、ということで」
メインモニタに向き合う。そこには船の外からでも助言や電子的な物資を援助してくれたサラが。ふう、とため息吐いてからやれれやれ、と肩をすくめて苦笑い。
『…貸しでいいのね？』
「ええ。何かありましたら喜んでお手伝いいたしますわ…ありがとうございます」
『なんかコワイわねえ、あんたに貸し、なんて』
「なんのなんの。こちらこそかのご高名なるセラ様に借り、だなんて恐れ多くて恐れ多くて」
『大丈夫。命までよこせとは言わないから」
「ああ、恐ろしや恐ろしや。半殺しくらいまでは行く、ということですわね…？」
『さあ…どうかしら…？』
と、サディスティックかつ円満な笑みを浮かべて見せたりするのだが…。
『…アレ、どうにかなんないの？』
「…どうにかなるくらいなら始めからやってますわ。セラ様にお願い申し上げる前に」
『…まー、そーよね。何が悲しくて物理的な接触がほぼ不可能の他船に助け求めなきゃいかんのだ、てなとこでしょうしね」
「さあ！ ここから一気に、し・あ・げーて、行こうかあーーー！」
『もちろん！ マイ・ボス！ Dマイ端子のー、微増セッティングをー…さ、あーーー！』
やってることは空調設備の微調整というそれほど難しくもない作業である。実際に現場（コンテナの端っこらしい）へ行って端子回りの調整をマズルカの手で直接やっても、もちろん問題はない。が、折角サルーという離れた場所からでもネットワーク的に操作できる存在がここにいるのだし、何より…端子の位置が非常にややこしい場所にあるので（似たような端子が山ほどある上に場所も分かりにくい）キャビンに居ながらにしてやってみようか…ということになったのである。
もちろん言い出したのはサルー。光速で乗ったのがマズルカ。できる業務を先にやっておこう、とセラを説得したのがエイブラ、という分担？になっている。
…そのまま現場行かせた方が早かったんじゃ…。
なんだかんだと歌い上げる一人と一台の作業効率からすると、その方が早そうに見える。しかしそう思いながらもエイブラはよく知っている。仮にここであのぐーたら船長を「おつかい」に出したところで大した成果は期待できないだろう、ということを。ヘタしたら彼女自身も現場に向かわされることになって、二重遭難のごとくムダに時間を浪費するハメになるかも…と。
「らら・ら・らーーーー！」
お世辞にも上手いとは言えないマズルカ。調子は外れているし、エイブラにも良く分からないが音階とやらも間違っているのだろう。
『さあ、マイ・ボーーース…さ・あー、進めましょーーう！』
サルーもその辺は理解？しているのか上手にサポートして気持ちを上向かせている…と、やはりエイブラにはよく分からないがそういう風に立ち回っているように見えないこともないような気もする。
…まあ、楽しそうではありますわね。
大声出して歌っている（がなっている？）マズルカは…たしかになんかどこか楽しそうではあるのだ。
『…楽しそうで何よりね』
「ケ。どーだか、ですわ」
『あんたも入りたいんじゃないの？ …仲間に』
「じょうだんはよしてくださいな。誰があんな…」
ちらり。
『あんな、何よ？』
「いいえ。何でも。ツッコミがいないとボケは成立しませんわ」
…分かってんじゃない。
『…ほい、これでわたしの分は終わり。そっちへ送ったので全部。…もう大丈夫ね？』
「はい。ほんと、ありがとうございます」
『貸しだからね。返してね。…じゃ、これで』
「はい。それでは…」
「あ、あたしもセラにお礼言っとかないと…」
息を切らせながらこちらへ泳いでくるマズルカを、がし、と捕まえる。
「今度でいいですわ。それよりも作業はきちんと進んでいまして？ お姐さまったら歌ってばかりで…」
『ら。らーらら…』
「はあ…いいかげんにしてくださいましね、このどくされスピーカーが…」
