『お嬢様はお休みになってしまいましたよ、マイボス』
「そりゃあ、もう、そういう時間だからね」
さっきまでぐーすか寝てた船長である。
『じゃあ、つぎーの、ミッシオンヌをー、は・じ・め・ましょーかー？』
「らら。そうねー、そーしよー…って」
「ちょい待ち」
『おおう？』
「先にジルバに連絡入れておいて。…別に動画の必要はないか…とりあえずあんたが無事に起動できた、ってことで」
『りょうかいですー…マイボス』
「文面とかそういうのは任せるわ。いい感じに送っといてね？ 向こうも心配してるだろうから」
『うぃ』
「作業も進んでるから、ってね」
『さっそくー…とりかかりますよー…！』
…どんな内容になるのか、ちょっと心配ではある。サルサ辺りが一番びっくりするかも知れない。
そしてマズルカは…
「もうちょっと待っててね」
コンソールにある筒状の「ポルカ置き場」に置いてある、あの翡翠色の腕輪を…つと、撫でる。
「もうすぐ起こしてあげるからね。いつまでも寝てんじゃないわよ？ ったく…」
サルーに手紙？を送らせて、そしていくつかミッションをクリアする。
もちろん細かい調整が必要なミッションばかりである。それぞれは先ほどのコネクタの調整のように地味なものばかり。エイブラならもっとすんなり？やるのかも知れないが、この船長である。ただし、できることとできないことの違いくらいは分かっている。
「…これは今やっとくか…」
『ラジャー、マイボス』
他の、例えば空調関係は大体終わっている。終わらせたのはもちろんエイブラ。残っているのは一部ダクト周辺の有害物質検知センサーの微調整とか船内大気循環システムの確認・調整など…結構めんどくさい作業ばかりだったりする。緊急な案件を先に片付けておくのはもちろん、容易な作業も終わらせておいて自身は休む、という辺りエイブラの技量の一端が見て取れる、という言い方もできるだろう。…その割にジルバへの連絡は後回しだったのだが…。
マズルカが主に手を付けているのは電装関連や各種感知装置など、である。重量感知や電流・水流感知などの周辺システム回り、ということになる。直接生命維持に必要はなさそうに見えないこともない（もちろんどんなシステムだって運行上必要かつ重要なものであるのだが）。
…そのせいもあるのかも知れないが…彼女が担当するとなると、どれもこれもなんだか妙に「軽く」思えてしまうのはなぜだろう…？
そういった「作業」をこなしつつ。…マズルカはマズルカで先に進めておきたいのは…やはりポルカの復活なのである。
…同時進行かなあ…。
「ねえ」
『なんでしょう…マイボス？』
サルーには先ほどの作業の継続を指示してあるのだが。
「あんたのお兄さんの復活さ、そっち関係も進めててくんない？」
少し、間があった。
『兄…ですか？』
「そ。コレ」
筒に収まって沈黙している腕輪を指す。生物のような「目」そのものはないが、サルサもサルーもセンサーを使って「見る」ことはできる。
『その件はわたしの中にも情報として収まっておりますが…』
「うんうん」
なんか少しミョー？な雰囲気ではある。
『既存システムの完全修復、とうかがっておりますが…』
「うん」
それはそれで間違いはない、のだが。
『しかしわたしはわたしにとって兄と呼べるような、年長的存在は認知しておりませんが…？ なぜマイボスは既存システムをわたしの兄、と呼ぶのでしょうか…？』
