「え、ポルカってあんたたちのお兄さんって設定じゃないの？」
設定ってなんだ設定って。
『少なくともわたしにはそういった認識はありませんが…？』
どうにも本気の様子である。少なくとも何か事情があってごまかしている…とかそういうようには聞こえない。
「サルサがいつもそう呼ぶもんだからそーいうもんかと思ってたんだけど」
『オリジナルはともかく。わたしにとって既存システムは既存システムであって、それ以上でもそれ以下でもありませんが…？？？』
まあ、実際こういったシステムに兄だの妹だの、それこそそういった『設定』こそ無意味だ、という見方もできなくはないのだが。
…どっかでなんかミスったのかな。
『引き継ぎ』の際に何らかのミスが起きたとか何とかあり得る話ではある。結構どたばたしてたのだし。
そもそもこの『サルー』は『サルサ』の一部に過ぎない存在である。能力的には本家でオリジナルの『サルサ』の十分の一にも至らないだろう。…それでも船内システム管理には十分過ぎる能力値だったりする。そのため能力的にはサルサをはるかに上回っている『兄』のポルカは完全にオーバースペック、ということになる。もっと大型艦船のシステム担当しても問題ないくらいの余裕もある。
それがなんでこんなちっぽけな貨物船のシステム管理やってるのか。
その辺は色々事情がある。その辺の『事情』もそのうちおいおい出てくることだろう…。
「ま、いいや。それでも」
目下の目標はポルカの完全復活である。最低限それが完遂できれば問題ない。少なくともマズルカにとっては。
「できるだけ同時進行であんたのにいさ…じゃない、既存のシステム復旧にも取り掛かってくんない？」
『りょうかいしましーた、よーーーー…マイボス！』
「おおーう、頼んだあよーーーーっと」
………
作業そのものは順調に進んでいるようである。
船内環境システムの管理復元及び修復作業はあらかた終了した。これまでのところ大きな問題は見つかっていない。
…大きな問題は。
呼気循環システムの一部、吸気口の部品に若干の劣化が見つかっただの水質浄化機構のフィルタにやや汚れが…とかそういった小さなトラブルも検出されてきている。もちろん、そういった報告が上がるたびにマズルカ自身がここから出向いて行って、直接物理的に修復していかないといけない。…よく考えてみたらこういった細かい作業はポルカが正常に動いている時だって彼女がいつもやっていたものだったのだが…。
「あーー…疲れる」
『お疲れ様です、マイボス。それでは次は…』
「へいへい」
と、またキャビンを泳ぎ出ることになる。
「で…そっちはどんな感じ？」
もう何回キャビンと修復箇所を往復したことだろうか。
『作業進捗としては9割を終了していますよ』
「おお、スバラシイ…」
『お疲れですか？』
「まあね。…で…ポ、いや、既存システムの修復はどんな感じ？」
『うーむ…それが、ですね』
「うん」
『システムスキャンは終了しています。結果は良好です』
この辺までは問題なさそうである。
『蓄積データ領域も問題はありません』
つまりは経験や各種取得によるデータ、つまりは記憶領域も問題はなし、ということ。
『なのですが…』
何か不穏である。
「…なんかヤバいってか…」
『はい。なぜか起動はしません。今、その原因を探っているところなのですが…』
