今度は何事か、と一瞬身構えるジルバとアンヘラ（恐らくはサルサが一番身構えていたかも知れない）。…無意識の中の行動、というやつだろうか。
『ちょっちまあ…その、とーりあえず、ね？ まだポルカが起動してくんないんだわ…』
とりあえずまとも？そうではある。
『そいでね、えっと…なんか…直接訴えかけるような方法ってないかなあ…ってね、あはは』
「データも一緒に送られてきてますね」
ちら、とモニタに目を走らせるアンヘラ。
「…結構な量です。かなりの活動量のようですね」
なお。まるでいっぱしの技術者みたいなこと言ってるが…中身がどんなのになってるか、とかそういうとこまでは全く理解していない。ただモニタ上に少しずつ形成？されつつある書庫ファイルを眺めているだけ、である。
『兄さまを復活させるためのこれまでの作業工程のようですね』
当たり前だがこっちはどんな内容だか理解している。…動画が終わる前にダウンロードが終了、開封したファイルの精査くらいは一瞬で終わってしまう。
『あ。こんな方法まで…なかなかやりますわね…向こうの…わたし』
…本音では認めたくはないのだろうけど。自分と同じモノだ、ということを。
『で…さ、どうしたら…いいかな？』
「うーん。…どう、と言われてもなあ…」
ジルバもちらっと見ただけでデータの大体の内容を読み取ったようだ。
『なんかね、その、問いかけとかそーいうのが必要なんじゃないかってサルーがね…』
「…そういうものなんですか？」
「ええ、まあ、そういうのもあるとは思いますが…」
さらに少し操作して詳細なデータを把握。
「たしかに機構的には何の問題もないんですが、ね。むしろ調子悪い時よりも今の方が状況が良いくらいだ…」
ただの腕輪だ、ということならここまで苦労はしないのである。中の中までタダの腕輪、というのなら。
サルサも含めてポルカなど「意思転移」された物品というのは一種ブラックボックス的なところがある。オカルト？的に物体に「魂」を定着させた…呪文や何らかの存在との取り決めなどで…と、そういうものでもない。何かの「部品」とでも呼ぶべき物体が中に多数含まれている。
転移された…「魂」はそれだけでは活動できない。いや、できないこともないのだが、十二分に動くのはちと難しい。そこで機構としてその活動を助ける仕組みがどうしても必要になってくる。これが…なかなかに複雑怪奇なのである。
例えばサルサの場合は見た目が「基盤」である。コンピュータに差し込んである。そのソケットはやや形式が古いものだが、そこへ「差し込む」ための部品と、そしてサルサの「意思」を具現化できるよう、いくつかの「部品」が組み込んである。それはポルカも同様で、あの細い腕輪の中には無数の「部品」がぎっしりと詰め込んである。…そもそもコネクタのある腕輪、というのは…いや、存在はしているか、健康補助のための測定装置を埋め込んだ装飾品ならそういうのもあるにはある。
ただ、ポルカはもちろんサルサもそういった「何らかの補助的役割を保っている装飾品などの物品」とは比べ物にならないくらい複雑な機構を有している。そしてそれはそれなりの技術者でも…ジルバですらも…完全には理解できないほどの機構だったりするのだ。
そんなある意味ややこしい？物品がゆえに「調子が良い」「悪い」時、というのまで存在してしまう。この辺は人間と何らかわりはない。
「なかなか分からないもんですけどね」
「そりゃあ、普通の人でもそうですもの」
たしかに自分のことならともかく、他人の調子の良し悪しなんてそうそう分かるもんでもない。
「ジルバさんがお作りになった…というわけではないのですよね…？」
「ええ。いくらなんでもこんな複雑で厄介なシロモノ、僕にはとても作れません。ポルカとサルサはある人によって作られ…そして意思転移されたんです」
『わたしは覚えてませんけどね』
すでにサルサはデータの解析を完全に終え、そこからの方策を導き出しつつある。
「そりゃあ、自分が生まれた時の記憶なんてある人の方が少ないくらいだからね」
ジルバも。ある程度の解決策をまとめつつある。ポルカがマズルカからの何らかの「働きかけ」で復活するのなら…という見地に立った上での処置、というところになるのだろうか。多分に感情的でまるでテクノロジー的ではない、とそういう風に見えるかも知れない。
が、まあ、キカイなんてのは大抵そんなものだったりする。とある地方には調子悪くなったキカイは一定角度でぶっ叩け、とかそんな伝承が残っていたりするくらいなのだし。
「ところで。ある人って…誰ですか？」
「その辺はナイショ、ということにしておいてください。ちょっと…いや、色々事情があるんですよ…」
