『惑星上から返信が届きましたよ、マイボス』
「ほう」
意味ありげに両肘ついて組んだ手の上にアゴなんぞ乗せてみる。ただし、宙に浮いたままのこの体勢では両肘はどこにも接触していないし身体もゆっくりと横にロールしてるし、で…これじゃカッコつけてるようにも見えない。ただくるくる回っているだけ、である。
「早いね。動画？」
やはり意味ありげな低い声。ありそうなだけで存在しそうもない、意味。
『いえ。文章ですね。それも、短い…。資料と思われるデータも添付されていますが…』
「開けてみて？」
そしてやっぱり意味ありげな笑み。もちろん意味も何もない。
ゆっくりとロールしていた身体をコンソール前に固定（バーを掴んで身体を引き寄せる）してモニタを凝視。
『いきますよ…』
こっちもやや低い声になっている。さすが、と言うべきかそれともノリがいい、と言うべきか。
さて。その文面はこうである。
『修正プログラム的なもののソースを送る。そっちで調整しながら使ってみてくれ。資料データといくつかのツールを添えておくから、もしエイブラでも分からなかったらまた返信してくれ』
と、まあ、簡潔なものである。取り急ぎ必要っぽいものをかき集めて送ってみた、とかそんなものなのだろう。
「どう見るかね？ 部下その一？」
『ふ。愚問ですね、マイボス』
少し、間を置いて…
『陰謀の匂いがしますね、これは。何とも香ばしい…』
「ほほう？」
『あの百戦錬磨のジルバ氏がたったこれだけの返信とは。何かあった、と思わざるを得ませんな』
「さすがに慧眼だね。部下その一」
コンソール前で浮きながら（右腕で手近なバーを巻き込むように抱え込みながら）手の甲の上にアゴを乗せてみる。…ホント意味ないな、これ。かなり体勢に無理があるので、どこか痛めそうでもあるし。
『非常に危険な香りを感じます。早急に手を打たねば…これは…まずいことになりそうな…？』
「では部下その二はどう思うかね？」
『うぇ？ マ、マイボース、わた、わたしもそう思いまーす！ これはなんだかとっても怪しいでーす！』
裏声で絞り出す甲高い声。わざとらしいことこの上ない。
「じゃあ部下その三」
『う、うぇぇ…ええ？ マ・マイボス、こいつぁ…ちときなくせえですぜ。どうです？ ここいらで一つカマかけてみるってぇのは…？』
「ふむ。部下その四は？」
『うぇ、えっと、その…』
「何ヘンなことして遊んでますの？ まったくもう…」
ため息つきながら泳いできたのは…サルーにとっての救世主とも言うべきか。
『おお！ マイハニー！』
「ハニーはやめろ」
「ジルバ様からの返信なんでしょう？ もう…さっさと見せてくださいまし」
「ちぇ、楽しかったのに」
「はいはい。そういうのは惑星上とか軌道上でやってくださいまし。忙しいんですから、もう」
そしてコンソールに張り付いてたマズルカをひっぺがし、送られてきたブツ？に目を通す。
「ふむ？ うーーーん…？」
なんだか、ちょっと、いやかなり考え込んでしまうのだった。
