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『ジルバ。タイニィビートからデータ通信です』
「？ ん？ 何だろ何かあったのかな…？」
目の前のモニタ上に表示させてみる。これがまだまだ惑星に近い頃なら音声通信になるのだろうけど、今はデータ通信による発信・受信がほとんどなのである。と言うことはそこまで頻繁に通信し合うわけでもない。会社によっては毎日（無論惑星上の時間概念で）一回の相互通信を社則で義務付けているところもあるけれど…こんな小企業ではそんな規則までは、ない。
『…報告書類の体裁をしてますね。軌道管理局への報告書類と…』
「エイブラの報告書も付いてる。なになに…？」
だからジルバにとっては結構久しぶりな「あっち」からの通信だったりするのだが、そこまで気にするような性格でもないし間柄でもない。『あ、なんか来たのか』とかそんなもんなのだろう。
「…へえ。最初期のミメットの部品…」
『みたいですね』
「画像も添付されてますけど…」
思い切り顔をしかめて視線をそらすアンヘラ。画像には腕が一本、ごろん、と転がっているところが写っている。
「…なんか事件現場みたいじゃありません？」
少なくとも現役警官の態度ではないように見える。ほとんどシロウトみたいだ。
「そうですけど…」
画像データは十分な拡大にも耐えられる品質のものである。本来ならば電子的ロックのかかる、複製不許可に修正不能なフォーマットをかますところなのだろうけど…軌道管理局に提出した方はそういう処理をしてあるのだろうけど…「こっち」に送って来たのはそのままの「生」データのようである。
従ってそこらの画像処理ソフトでもカンタンに拡大縮小はもちろんあり得ない「何か」を挿入することも可能である。…ただ、そんなことやらないだけである。意味もないし。
「ふーーん…？」
『エイブラさんからの報告書ではFF02-000-CECILというミメットの右腕、とのことですが…』
「FF02-000？」
…一気に喰いついたのはアンヘラである。そりゃ、そうだ…。
「それって、あの、FF00の、000の、あの、あの子と同じ…！」
「…まあ、落ち着いてください」
「これが落ち着かずにいられますか？ 私はそもそも何のためにここに…！」
「いや。だから…落ち着いてください」
「でも…！」
はあ、とため息を一つ。そして顔の前でゆっくりと腕を組む。己の顔を隠すように。
「落ち着いてください。この報告書が上がって来た場所はここのはるか彼方、53870…あ、いや、成層圏なんかぶっち切って、辿り着くだけでも何日も何日もかかる、その先です。分かりますか？ この現物は今すぐ我々が触れることもできません。ただただ見ることができるだけ、です。…ここで慌てても仕方ないでしょう？」
なんとなーく意味ありげに、それとなーく腕を振り回していたアンヘラだったのだが。ジルバの言葉を聞くと、力なく腕を下ろして…かくん、と椅子に落ちてしまった。
「はい。ええ…分かってます…ええ…分かってますとも…」
「それに実はこれはちょっとヤバい案件かも知れないのです。…アンヘラさん、あなたが警察関係である意味良かったとも言えますし…良くなかった、とも言えます」
「え？ それって…」
無言でキーボードとマウスを操作。やがて画面に出てきたのは…
『ミメットの歴史…？』
「公的な、だね」
「最も最初のミメットは…『アリスターカンパニーが開発したAmf01-001-001-AADAで、当初はあまり注目されませんでしたが…』って…」
「FF…フォルスフォーマは…どうなってるんです？」
「実はこれが一般的な認識なんですけど…学校で勉強しませんでした？ 現状、『FF』は知っている人も少ないですし、場合によってはなかったことになっています」
「あなたは警察関係者ですからね、ある意味ウラの話は入ってきてた、とは思うのですが。」
「え…と…」
照れくさそうに頭をかく。
「そ、そうだったっけ…あはは…」
…学校で習ったけど忘れた、とかどうやらそんなもんらしい。
