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『いわゆる黒歴史というやつですね』
しれっと核心？を突いてくるサルサ。
『わたしのデータベースには情報としては存在してますけど、ね』
「そうです。これはおおやけな歴史ではない、ということです」
重々しく、ジルバ。
「しかし公然の秘密みたいなことになっています。…どういう意味かは…お分かりですね？」
椅子に深く腰掛け、腕を組んで、そこへあごを乗せて…やはり重々しい雰囲気は変わらない。
「いかがですか？」
「まあ…そこら辺は分からないでもないのですけれど」
軽く頭をかいてみたりする。
「私のミメットに関する知識なんて、警察に入ってからがほとんどみたいなものですし」
「…え」
「いや、だから、一通りは公的な学校で習ってますけど…あんまり成績は良くなかったんですけど…それ以上深いところ、なんて知るわけないじゃないですか。そもそもは私、事務畑の人間なんですよ？」
一瞬、呆けたような表情になる…ジルバ。もしサルサにも「顔」があるのなら同様の表情になっていただろう。
『えっと…アンヘラさん？』
「はいはい？」
『たしかあなたのお母さまって警察のちょっと偉い方で…』
「ええ。連邦警備局シードレ郡本署副署長やってるけど」
『じゃあ、あなたもちょっとは偉い方なのでは…』
「やあねえ、親がそうでも子もそうなるって決まってるわけないじゃない？ 私はフツーに公共職員試験受けて、警察採用試験に受かっただけ。それでずっと事務関係の部署にいたんだけど、ある時いきなり呼び出されてあの子専属になった、ってわけ」
実はジルバは少し前にアンヘラの身元を洗っていたので、彼女がそれほど重要なポストに就いてはいなかったことは知っていた。しかしそこまで深くは探れず（何せ相手は国家権力の一角なのである）さらには一個人の細かい情報までは探り様がなかった、というのも実情だったりする。それこそ彼女の母親クラスの重要ポストならかえって探り出しやすかったりするのだが…失礼ながらせいぜい一職員に過ぎない程度のアンヘラの情報なんぞ、抱えているわけもない、というものである。
ただ…
…その割には操作が怪しいような気もするんだけどなあ。
事務畑の人間ならコンピュータ関連の操作は当たり前にできるはず、である。それが指一本でちまちま作業してる姿をよく見ている身からすれば…ちょっと、いやかなり疑問を持ってしまう。
「だから私はそんな詳しいこと、知らないんだって」
たしかにエイブラのこともあまり知っていなかった節もある。
「知らされてなかったってのが正しいかな」
しかし…
…ちょっと引っかかるかな。
と言うのがジルバの率直なところではある。が、今はそこまでこだわっているわけにもいかない。
「分かりました。でも警察のデータベースにアクセスできたりはするんですよね？」
「ええ。ある程度は」
「どれくらいのレベルです？」
レベル、とはアクセスできる権限のことである。一般市民が知ることのできる程度（例えば軌道安全促進強化期間のマスコットの詳細とか）ならレベル1、ということになる。通り一辺倒の情報しか得ることはできない。
「3…ですかね、レベル3」
一般職員がアクセスできる一般的なレベルである。レベルは1〜8まであって、8となると国家機密クラスの情報を扱うことも可能である。もちろん、限られた人員しかそんな高レベルの情報に触れることはできない。
「ではその範囲内でアクセスしてもらっても大丈夫ですか？」
「もちろん」
…できるだけおおごとにしたくないんだよなあ…。
ジルバの技術ならレベル7程度の情報でも盗み出すことは可能だろう。しかし本来はそこまでやりたくはないのである。結構後々面倒なことになったりする可能性も高いのだ。何せ立派？な犯罪行為である。
「こちらでもある程度は初期ミメットの情報を得ることはできますが、やはり公的機関のものにはかないません。こっちは図書館のデータベース等をあたってみますので、そちらは警察関係をお願いします。…サルサ、やるよ？」
