…さて、どうするかな。
業界に関係しているジルバ達ならそれなりの情報は入って来る。それは一般的な（自称？）情報通達よりもはるかに詳細で、はるかにヤバいものも多い。以前に彼が言っていたように、この業界はミメットなしには成り立たない。そもそもヒトの生存を許さない軌道上設備が主な職場なのである。ヒトに絶対必要な各種要素をぶっ飛ばせる存在なら、明らかに重宝されるはずである。そして、ミメット業界の方もそういった職場があることで発展してきた向きもある。
かなり強固な繋がりのある業界同士、という言い方もできる。…もっとも、軌道上産業なんてのはそんな業界のオンパレードでもあるのだが。軌道上開発は黎明期から最先端の技術や知識が総動員されてきていた世界。言い方を変えるなら、そうでもしないと太刀打ちできなかった世界、という言い方もできる。ヒトが元来活動できない場でもラクショーで活動できる、しかもヒトと同等やそれ以上の活躍も期待できる、そんな理想の存在であるミメットが軌道上に進出していったのはある意味当然だったのだろう。
一方でミメットに関しては様々な都市伝説めいたものも相当数存在している。
公的？にはそもそもの元祖的な存在？ともされるアリスターカンパニーにしてもその手の話が尽きない。学校の教科書にも載っている、誰しもがその名前くらいは聞いたことのある…どんな企業か、ということまで詳しくは知らなくても…そんな名の通った企業である。が、その名前を持った企業は今は存在していないというのは何度も述べている通り。動きの激しい業界の常で離散と集合を繰り返して今は別の名を持ついくつかの企業がその技術やノウハウを継承している。
公的な教科書にも出てきた、当初はあまり注目されなかったというAmf01-001-001-AADA、アーダの直接の後継機種はマズルカも軌道上でお世話になったベルファ：Amf01-001-007-BELLFAである。アリスターカンパニーの名を冠して唯一稼働しているミメット達、とされている（実はアーダはとある博物館で一体だけ静態保存されている。が、彼女が動く機会はもう二度とないだろう）。
ちょっと前にも述べたが…「Amf01」と双方に明記してあるので彼女らは同型機種の別バージョン同士、姉妹？ということに。そして後ろから二番目の数字（アーダなら001ベルファなら007）はミメット全体の通しナンバーである。そのため001を持つアーダがミメットの中でも最も古い型、ということになる。
…なるのだが。
なんで001の次がいきなり007にまで飛んでいるのか、と言えばそれは世に出なかった実験機種や試作機種などがその間に5つあった、ということである。オモテに出てこなかった連中には名前（アーダAADAとかベルファBELLFAとか）が付くことはない。ただのAmx01-001-002だのAmx01-001-005とか呼ばれるだけ、である。場合によってはヒト型にすらなっていないこともある。無論のことその「世に出ることのなかった兄弟姉妹」は無駄な存在などではない。彼ら彼女らがいなければ新機種が世に出ることもできなかったのだから。
しかし一部ではまこしやかにささやかれているのだ。…欠番機種は実はヒトとしてこの世の中に紛れ込んで生活しているのだ、と。
当然あり得ない話で、完全にヨタ話である。理由はカンタンで、ミメットには定期的なメンテが欠かせないからである。ヒトが定期的メンテを必要とするか、と言えば…そりゃ病気や怪我をすることはあってもどこかのハンガーやドックで身体調べられたり資材を補給されたりするはずはない。
ベルファ達にしても今まで活動して来れたのは文字通りの「親会社」であるアリスターカンパニーがきちんと後継企業に技術や設備を残していってくれたから、である。すでに何百年前の機種だ、という話である。通常の車両や航空機ではここまで「持つ」ことはない。が、ミメットはそれぞれに適材適所がある。旧型ほど自重が重く（そのため無重量の軌道上でしか活動できない）資材消費も大きくなりできる作業も機能も限定される。しかし蓄積されていく「経験」はバカにできない。ミメットはヒトと同様に学び、そこから思考を重ねて新たな行動を作り出すことができる。それはいくら最新機種が投入されても再現することのできない「武器」となり得る。
が、それもこれもきちんとしたメンテがなくては成り立たない。中には不幸にして受け皿となる後継企業が見つからず、メンテ不備により廃棄されたミメットというのも存在しているのだから。
…デクスターとか、そんな感じだったかな。
ジルバがふと思い出したのはデクスターカンパニーである。アリスターカンパニーの次に立ち上げられたミメット関連企業で「Dmx」を冠して当時は飛ぶ鳥を落とす勢いで先鋭的なミメットを多数送り出していたのだった。アリスターを「伝統企業」デクスターを「最新企業」と見ていた、という話も伝わっている。
しかしいくつかの不運やあまりにも拡大しすぎた無理無茶から来る不評、それに連なる経営不振により…倒産。通常なら同業他社が生産ミメットの受け皿となることが多いのだが、これも不発に終わる。やがてメンテができなくなったミメット達は次々と活動を停止し…廃棄されていった。そのため現存しているミメットは世界のどこにも一体もない、とされている。
「サルサ」
『はい？』
「デクスターから攻めてみようか。これもある意味黒歴史だしね」
『分かりました。…デクスターの…どこから調べてみます？』
少し、考えてみる。
「…幽霊企業」
『…え？』
「幽霊企業。セシルの件もそうなんだけど、まだまだ不明なところはあるんだ。…一体誰が、どんな企業が彼を作ったんだろう…とかね」
