「でくすたー…でくすたー…」
『フツーにフツーので検索してもフツーの情報しか出て来ませんよ』
仕方ないなあ、という口調のサルサ。
「じゃあ、どうするの？」
こっちはやっぱり指一本で警察関係の情報を漁っているアンヘラである。
『色々工夫して、そして粘り強く攻めてみる。それしかありませんね』
「とは言われても、ねえ？」
レベル3の一般職員がアクセスできる情報なんて、タカが知れているものなのだが。
「なんか…ヒントとかありません？」
彼女の目の前に展開されてあるのは通常？の犯罪経歴データベースである。もちろん一般人がひょいひょい気軽にアクセスできるものではない。ただ…やはり一般職員程度だと『年月日』『場所』『内容』『結果』くらいしか分からない。もう少し上のレベルなら『容疑者』『被疑者』『犯罪内容の詳細』なんかも知ることはできる。そもそも捜査上の機密事項なのである。
それでもやり方はある。
「そうですねえ…」
一言二言サルサに指示を出してから、しゃーーーっと滑ってくるジルバ。
「少し前の窃盗事件とか、ですかね。本当は企業のヘッドハンティング関係の名誉棄損事例なんかがあるといいんですが」
「…えっと？」
「十年くらい前…本当はもっと昔のがいいんですが、それくらいならまだ詳しい資料も残ってると思うんですが」
「はあ…」
「生活費欲しさに窃盗、というのはいつの頃もある犯罪です。その中でも特に金銭プラス技術系資材の窃盗に関するデータを…」
「………」
「まあ、できるだけでもいいんですが。それと年齢はやはり再就職に不自然がない程度でお願いします」
「…は…」
『ジルバ、ジルバ？』
「なんだいサルサ？」
『アンヘラさん、思い切り固まってますよ？ もっと分かりやすく説明してあげないと…おーい、アンヘラさーん？ 生きてますー？』
「あうあ、なんか、ちょっと、息が止まってました」
「すみません。大丈夫ですか？」
コーヒーなんぞを持ってきたりする。
「あ、こっちこそすみません。いえ、大丈夫です、大丈夫です…」
もらったコーヒーを…ぐっとあおって一息。
「つまりは再確変の船体判例でクッキーが絡んだ最近の事件を探せばいいんですね？」
…クッキーはどこから出てきた。
『えっと、要は…技術者の再就職や転職関係でのトラブルによる犯罪を…ってことですね』
「なるほど…」
『でもジルバ、デクスター社が存在してたのはもう何百年も前の話ですよ？ ここ最近の事例じゃあ、あんまり意味ないんじゃ…』
「うん。それは僕も考えた。でも現在の電子ネットワークによる犯罪履歴管理方法が当たり前になる前にデクスターはすでに消滅していたんだ。だから本気で当時の記録を漁ろうと思ったら国家的なあの大図書館へ行くしかない。それも実物の資料を漁りに、ね。どういう意味だか分かるだろう？」
『そんな場所、レベル3だと入ることはできても閲覧に大きな制限がかかりますね。しかもあの未整理数も尋常でない程膨大な、人喰い迷宮とか未帰還ダンジョンとか噂されてるあそこへ行ってるヒマなんかありませんね、たしかに』
「ネットからじゃあ、無理ってこと？」
『電子的アーカイブに収めるには資料数がシャレにならないくらい多すぎる上に全部を管理できてるわけじゃないので、現状ではほとんど公開もされてないんです。あの凶悪な数を全管理しようとしたら惑星上の人類を全部動員しても人類滅亡までに間に合わないんじゃないか…とかそんなことまでささやかれているんですよ…』
「そもそもあんな数を収めて安定運営できるサーバなんかどうやって維持するんだ、とかそんなことまで言われてます」
「じゃあ…どうするんですか？」
「そこで最近…とは言っても詳細な記録が残ってる範囲で古そうな事例、そういうところから何とか引っ張り出せないか、ということなんですよ。少しでも手がかりがあるならなるべくやってみたい。…サルサ、こっちは技術系サイトを当たってみよう」
『はい、ジルバ』
「何かちょっとしたとっかかりでもあれば、それでいいんだけど…」
