そう言われても、というとこではある。
「うーーーん…」
ジルバのやりたいこと、とはつまりは『過去の案件に繋がりそうな最近の案件を探す』ということである。アンヘラの仕事は『それっぽい事例を探してみる』ということだったりする。もっと専門的な、細かそうなのはジルバとサルサがやる、ということなのだが。
「…うーーむ」
一応？ レベル3クラスという少なくとも一般市民よりも深層にアクセスできる立場にはあるのだ。あるのだが…そうそうそんなものが見つかるとは思えない。
「うーーん…」
『苦戦してますね』
モニタの端に、ひょい、と翡翠色のアイコンが現れる。
「そりゃあ、ねえ…」
『うふふ』
「こっちに来ててもいいの？」
『ええ。ジルバにこっちを少し手伝ってあげて、と言われましたし』
…ちら、とはるか彼方？のデスクに目をやってみると、ちらちら手を振っていたりする。
『さ、やってみましょうか…』
『それじゃ、まずは検索してみましょうか』
「直接やってくれないの？」
サルサは言ってみればただのプログラム、数列の塊みたいなものだからアンヘラがちまちま入力するような作業ならあっという間に実行できる。特定のワードの検索、なんてな作業ならそれこそ瞬きする間も必要ない。
『いえ。わたしが直接やってしまうとバレてしまうので…』
「バレるって…？ 誰に？」
『警察の警備システムです。いくらかそれっぽい挙動で実行することは可能ですが、どうしたって目は付けられますし』
間を置かずに操作できる、ということは生身の人間ならまず不可能な速度・精度で操作する、ということでもある。当たり前な話だが、今、アンヘラの目の前に展開されているのは公式な警察のシステムの一部なのだ。もちろん外部からのアクセスそのものは可能な状態である。しかしそれにはレベル3のセキュリティを確保している人物・アンヘラがアクセスしている、この状態が必ず必要となってくる。情報収集などを目的とした自動操作プログラムではない、ということが前提なのだ。
そのためこういった公的なシステムは常時監視されている。何か不穏な動きがあれば即座に追尾・捕捉できるように。
無論のことサルサも十二分にそれを承知している。実際にはそういった連中？が同じ端末内にいることすらも感知されてしまうのだが、そこら辺をうまく回避できる方法もきちんとある、ということである。
『わたしは今はただのニュースサイトアプリ、ということになっているのです。だから少しくらいの簡易なアクセスならできますが、それ以上に介入するのは…ダメですね』
「うーーん、じゃ、まあ、仕方ないわねえ…」
『そういうことで助言だけはできます。うふふ』
「で？ 何を検索してみたらいいのかしら？」
『最終的にはデクスター関連ですが、まずはとっかかりです。で、に絡んだ適当な文言から拾ってみましょうか』
「容疑者とか被害者とか、そういうところまでは無理なのよ？」
『ええ。ですから場所とか内容とか、ですかね。どんな小さなとっかかりでもいいので、とにかくやってみないと…』
「うーーーーーん…」
「やっぱ無理じゃない？」
『もう8456万4367件まで絞り込めましたよ？ で、でく、でくす…色々と引っかかるもんですし、さあ続けましょう！ 何か出ますよ！』
「あんた結構タフね」
「………」
「…ね、もういい？ ね、もう何もないよ…多分…」
『まだ5438万7834ですよ？ あともう少しですね！ きっと何か出ますって！』
「…あうあ…」
「ね、これでもういいんじゃない？ デクストシティのデクスト喫茶店で…男二人がデクスト殴り合ってデクスト、でくす…うふ、うふふ…」
ヤバイ、壊れてきたか…。
『ん…これって…？』
