「思い切り『デクスターカンパニー』ってあるんですけど」
何やら深刻重大な事件、というわけではなく。企業間の詐欺案件の外部資料にそういった名前の企業の名があった、とかそんなもんである。
『ええ、まあ、それは…』
「同名の会社くらいあるってこと？」
『そうですねー…そもそもデクスターですし』
「…ありゃりゃ」
サルサがフツーに検索した結果を見せてくれる（これくらいならニュースサイトアプリだってやってることなので問題はない）。そこには無数のデクスター、でくすたー、デクスター、でくすたー…。
「こんなに？」
『ですから、でくすたー、って名前だけならいくらでもあるってことです』
そこにはもちろん企業名もあるが、それだけではない。個人名としても存在しているのでドラマや映画のタイトルから商品名、あるいは店の名前などなど。
『その中から探してもらうのですから、こりゃあ大変だ、ということなんですが』
「ふーーーん？」
『…どうかしました？』
「いや、実はさ、この中に今でもデクスターカンパニーがあるってのは…ない？」
『ですから…そりゃあ、あります。でもそれは今の、であって…』
「そ。今の、はもちろんあるはずよね」
『じゃあ…』
「ううん。そうじゃなくて…数百年前の、ミメット作ってたそのものが、って話」
『すうひゃくねんまえ…』
「本当の意味でのゴーストカンパニーってことですか」
いつの間にかジルバが画面を横から覗き込んでいる。
「ええ。実はひっそりと今でも存続してました…ってことはないですか…？」
「ちょっと考えにくいですが…うーん…」
検索対象を『デクスター カンパニー』と企業名に絞っただけでも相当数ヒットする。これにアンヘラが使用可能な警察関連資料も加えると、その数はとんでもないことになる。その中から今度は探さなければならない。
「もうそのものズバっと行ってみましょう」
「？」
「『ミメットを製造しているデクスターカンパニー』で検索…っと」
検索結果：ゼロ
『まあそうでしょうね』
そこまでカンタンなら苦労はしない。
「でももっと範囲を広げて…ちょっとぼやかしてみたら…？」
「なるほど。そうですね…例えば素材関連、とかどうです？」
『キーワードとしては技術職？ それとも…ソフトでしょうか…ミメット扱うなら無視できない技術ですよ？』
「外見も欲しくない？ ヒトっぽいんだからやっぱりヒトっぽいことのできるはずだし」
「ソフトだけではなくハードも、ってことですね？」
「なんか引っかかりそうなんですけどねー…？」
ジルバも自分のコンピュータ放り出して検索、もちろんサルサも、そして（結構足引っ張ってるようなそうでもないような）アンヘラも。…そして
『結果…ヒットしました。アレイ・デクスター・カンパニー』
「業務内容は？」
『人工素材による駆動体部品製造・管理ソフト開発・そしてリアル志向の人形開発、です』
「…なんか後半アヤシイような気もするけど」
『でも情報、転職斡旋サイトの企業紹介ページのこれだけです。企業サイトもSNSも存在してません』
「うーん…最低限のネットワークはあるはずなんだけどなあ…」
「じゃ、行ってみましょうか。実際に」
『え？』
「住所は載ってるじゃない。実際に行ってみればいいのよ？ ね？」
