「え、あの…」
「実地も大事ですよ？ それにこれしか手段ないみたいですし」
『今から…？』
「善はなんちゃら、とか言うじゃない。さ、行きましょ？」
…なんかとんでもないことになった…。
というのが実は一人と一枚？の正直な感想ではある。ビートエクスプレスは軌道上や惑星衛星間の貨物輸送を主としている宙間輸送会社である。が、その実働を担っているのはマズルカとポルカの二人と一つ？であってジルバとサルサはデスクワーク、つまりは地上要員であって軌道上はもちろん、外へ営業に出ることも数えるほどしかない。こういうのはこの手の輸送会社にとどまらず…物流企業にしろ建設関連企業にしろ…至極当たり前な状況だったりする。分業がきっちりしているのである。
例外としてはこないだもあったような公的機関からの呼び出しとか。それにしたってまっとう？な企業ならそれほど多い事象ではない。
軌道上はもちろん、惑星上にしても運輸や建設作業などのいわゆる肉体労働はミメットや専用ロボットへの分業度合いが大変に大きい。実際に身体を動かすのはキカイ、それ以外はヒト、とかっちり区切ってしまっているわけではないが…特に軌道上及び衛星関連企業に関してはそういった「分業」が自然と当然になっていたりするものである。そもそもは自重が大きくなりすぎていた初期ミメットが、活躍の場をまずは無重量の軌道上に求めていったという歴史があるからでもある。
さらにはほとんどの業務がネットワーク上で完結できるようになっている、ということもある。ヒト同士が実際に顔を付き合わせなくても業務にそれほど支障をきたさない。年期の区切りだとか慶弔行事とかの企業間や個人絡みでの集会行事もあるにあるが…そういった付き合いの苦手なジルバは性格上、どうしても、という場合を除いてなんだかんだ理由を付けて出ないようにしていたりする。
もちろん、そういった「ぱーてぃ」大好きな連中もいるにはいるのではあるけども…。
「ええっと…リバドンナ？ ああ、マサナ郡の方ね。へー…なるほど」
こっちの彼女はそういう手合いの一人なのかも知れない。先ほどとはうって変わって軽やか？に地域データを検索していたりする。
「あら。果物の産地なのね？ なんか美味しそうなお店とかあるのかなー？」
『…どうします？』
音声ではなくテキストによるメッセージ。
『いや、どうもできないだろうね…』
ため息とともに、返信。
『ジルバ…』
『ん？』
『主導権、取りましょうよ』
『少し…無理かな、僕には』
『…ですよねー…ジルバには。でもそれはそれで…』
『それで…って？』
『何でもないです。行く時はわたしもお供しますからね？ 必ずですよ？』
『うん。頼むよ』
「計画、出来ましたーっ！」
…なんでそんなにテンション高いんだか。
「はあ…」
実はなんとなくイヤな予感がしているジルバだったりする。
「まずは電車でカイチにまで行きます」
「電車…」
予感的中、といった真っ青な表情。
『ジルバ、しっかり！』
「なんでそこから引っかかるんですか？」
『ジルバは、その…人ごみが苦手なんです』
「そもそも人に会うのも、ちょっとね…」
モニタ上の地図。それの『カイチシティ駅』のアイコンを指す。
「シードレ郡でも有数の町だからね。そこへ電車、ということはカイチシティ駅だ…ね？」
「はい。もちろん。そこから支線に乗り換えますんでね」
「…できれば混まない時間にしてもらえないかな…？ それならなんとか…」
それを聞いてうーん、と考え込んでいたアンヘラだったが。
「ダメです。それなりに混む時間帯でないとデクスターの業務時間内に間に合いませんよ？」
