相手の出方が分からないのだ。…そもそもあのリフターが本当にこっちを監視？しているのかどうか、そこからまだ分からない。しかし…なんだかちょっと、いやかなり引っかかるのである。この辺はカンみたいなものである。
…読みにくいんだよな、やっぱり。
純粋な土木作業用なら飲食店、それも工事も改装もしようとしていない『どノーマル』なら、そんな場所にいる必要はない。人間の作業員なら食事は必要だが、リフターにそんな機能はなかったはずである。…もちろんそういう方面に改造してあれば話は別だが、そういう意味でも読みにくい。
…それでも考えられるとしたら…
…あれかな、あっち関係かな…？
「…サルサ、形式と固有番号から何か分からないか、調べてみてくれ」
『…了解です、ジルバ』
「何ひそひそやってんです？」
思い切り怪訝そうな顔のアンヘラ。
「あ、いや、はは、別に何でもないです。アイスは…もう食べてしまいましたか、じゃあそろそろ行きましょうか」
「ジルバさんの分もあるんですけど」
目の前に、ちょこんとした器に盛られた可愛いらしいバニラアイス。
「あー…じゃ、じゃあ食べてから行きましょう、うん。あー…冷たい甘い、あー…美味しいですねえ、これ。ははは…」
………
…アタマいたい…。
『…一気に食べるからですよ』
「大丈夫ですか？」
「ええ。まあ、何とか」
ようやく駅の改札方面に向けて歩き始めているのである。そんな食い方するからアタマ抱えるような姿勢にはなっているが。
…ついては…来ないみたいだな。
当然だが店を出る時もそっとあのリフターを観察していたのだった。ウキウキな表情でアンヘラが支払いしている間に、だが…特に何も動きはないように見えた。手元に置いてあるタブレット端末？のようなものをじっと眺めている…こういう光景はビジネスマンの多い駅のカフェならよくある…だけだった。が、なんだか出て行くこっちに一瞬だけ視線を走らせた、そんな気がしないでもなかった、ような気もする、のだが…。
…読みにくいなあ…。
リフターは元来が土木作業用ミメットである。職場にいても不自然がないように表情が控えめに調整してあるんだそうである。寡黙に働く大柄な作業員。そのためどうしても動向が読みにくくなるのは仕方ないと言えば仕方ないことではある。
『…ジルバ』
「…ああ」
…やっぱりついて来てる、なあ…。
シードレ郡では最大の商業都市でもあるカイチシティ。そこの最大分岐点でもあるカイチシティ駅に向かうにはまず三本ある大幹線の一つ「二番線」に乗る必要がある。リニア方式の速幹線に乗る、という手もあるが結構な価格する上にインナリウスシティ駅からなら実はそれほど時間の差はなかったりするので、普通運行で問題はない。
何せ三駅で着くのだ。そこからまた別の路線でアレイ・デクスター社のあるマサナ郡リバドンナへ向かうことになる（なおマサナ郡はシードレ郡と隣接している）。
完璧に通勤用電車である。立ち客を多く収容できるように座席はロングシート。そしてこの時間帯である。
「………」
『………』
今この車両に乗っているのは座席に腰掛ける二人（プラス一台）とそして隅に立っているミメットが一体だけ。
実は店を出る直前くらいにサルサの調査結果？が出ていたりする。
『…固有番号から調べてみたのですが…』
固有番号とはミメットの個体それぞれに出荷時に割り振られた番号のことである。形式番号とは違って統一性がなくメーカーによって書式もばらばら。中にはベルファのように固有番号を持たない個体も存在している。
一応？機密事項になるのだが…知ってもあまり意味のない番号な上に調べるのが結構めんどくさいので、それほどメジャーではない。使うのは…就役する時に関係部署に提出する書類に記入するくらいである。雇用主側には必要な場合がある、とかそんなものである。
『出荷後に複数の土木会社に所属してましたが、数年前に警察関係に所属してますね』
「警察…」
「え？ どうかしました？ それで、ですね、その子ったらまったくホント面白い子で…って…？」
ふと、顔を上げると無表情で大柄なミメットがいつの間にか目の前に立っていて…
「アンヘラ・リーン・リドル様、で間違いない、ですね…？」
