規定の料金をカードで払って…リフターに荷物を下ろしてもらって、降りる。
『マタノ、ゴリヨウ、ヲ』
そして去って行ってしまった。
一応？の看板は出ている『アレイ・デクスター・カンパニー』と。看板としてはフツー？にも見える。よくある住宅地に工場を構える、小さな町工場のやはり小さな看板、のような。ただしこの住居にはあまりそういった「工場感」は感じられない。そういった工場の多くには一種の「作り手風の雰囲気」がまとわりつくものだったりする。それをここで感じることは、できない。
「ホントにここなんでしょうか…？」
さすがのアンヘラも少し不安な様子。
「……」
しかしジルバは…何度か大きく首を横に振ってから歩を進める。
いかにも一般のご家庭にありそうなインターホンを押そうとして…
「やあ。いらっしゃい。待ってたよ」
その前にドア（これもやはり一般家庭にありそうな作り）が開いて、見た目は結構若そうな男性が出て来てしまったのである。
「あ、あの、こんにちは。私たちは実は、ですね…」
虚を突かれていきなりしどろもどろになってしまったアンヘラを、そっと、押しとどめてジルバ。
「…やはりあなたでしたね」
「おおう。さすがジルバ。ちゃんと分かってるじゃないか。…さあ、入り給え。…サルサも一緒なのだろう？」
「はい」
「何もないが、おもてなしはさせてもらおう。さ、お嬢さんも。そっちの君も」
「は、はい」
ちら、とジルバを見る…。
一瞬、天を仰ぐような仕草をして見せたジルバだったのだが。
「…父、なんです」
「お父様！？」
「ええ。まあ、色々と…父、なんですよ…」
通された先は…やはりどこにでもありそうな応接間。ソファが一組とテーブルが一つ。
しかしどこか違うのはいかにもロボットロボット？した何枚かの小さなテーブル？を組み合わせたようなナゾの物体がくるくると動き回っているところだろうか…。
『イラッシャイ、マセ』
そしてこのいかにもな合成音声。
「父さん…」
「？どうした？ お前もこういうの好きだろう？」
「普通に家事用ミメット作ったらいいのに…」
「何を言う。こういうのが楽しいんじゃないか。さ、座ってくれ。お嬢さんも、そっちの君も。さ？」
言われるままにおずおずと腰を下ろすアンヘラと、窮屈そうに収まるリフター。
「あの、ジルバさん…」
こそこそっとアンヘラ。
「もしかしてさっきの無人タクシーも…」
「そうです。父の仕業ですね」
「じゃあ、本当にここでミメット…と言うか無人制御系の開発を…？」
「そうなんです。そもそもが…」
「いや。失礼した。私の名前はカート・クレイマン。ビートエクスプレス社の創設者にして、ジルバとマズルカの父でもあります」
「は、はい、あの、えっと、私はアンヘラ・リーン・リドルと言いまして…」
「シードレ郡シードレ本署電子演算犯罪課課長、ですな？ ジルバがお世話になっています。そっちの君は…リフターだね？ なかなか良い調整をされているようだ…」
「お褒めに、あずかり、光栄です」
「そう固くならないで。そうだ、良いお茶と菓子があったはずなんだが…」
ぱちん、と指を鳴らす。
『オマタセ、シマ、シタ』
さっきの配膳？ロボが文字通り滑るようにやってくる。小さなテーブルの上には香り立つお茶と、お菓子がきちんと乗っている。
「うん。これだこれだ。さ、食べ給え…」
