…なんかよく見えないわね。
 相当に古いもののようにも見える。
「ふん。ジルバ、お前はやはり固いな。これからまだまだ伸びしろがあると言うのに…固い。いやはやもったいないものだ」
「父さんが時代の流れに乗っていないだけですよ。以前から作っているものが変わらない。レトロモダンと言えば聞こえは良いですが、こだわりが過ぎるとそれもまた時代遅れになってしまいますよ?」
「…聞いた風なことを」

「…あのーーー」
 軽く手を上げて見せたりして。
「ああ、これは済まない。息子が来るとね、いつも議論が白熱してしまう…」
「いえ、それは、まあ、別にいいんですが…」
 ちら、とジルバを見る。
「ちょっと、お伺いしたいことが、と言うか、その…ここへ来たそもそもの目的、と言うか…」
「目的?」
「ああ、そうでした、そうでした」
 ようやく?思い出したらしい。持って来ていたタブレットPCを取り出したりしている。
『…良かった。てっきり何も話さないまま、また飛び出してっちゃうんじゃないか、と』
「おや? サルサ、ようやく出てきたね。久しいな、元気にしていたかね? いや、元気と言うのはちとおかしいか…」
『ご無沙汰してます、おじさま。相変わらずですね』
「ははは。変わってたまるかね。ポルカは…そうだ、そっちもマズルカと大変なことになってるんだっけな、ジルバ?」
「その話もしようと思ってたんですけどね。…これを見てください」

 マズルカたちが航路上設置物資で発見したブツ…古いミメットの腕の画像である。

「………」
「FF02-000のパーツじゃないか、ってのが航路上の連中の意見でしてね。まあ、僕もそうじゃないか、とか思ってますが…」
「そうか。まだ残ってるんだなあ…そうか…」
 タブレットPCの画面を軽く、撫でる。
「…セシル」

「セシル?」
「ああ…済まない。つい追憶に浸ってしまったよ、私らしくもない」
「セシルって何ですか?」
「大昔の、本当に大昔のミメット…いや、そんな呼び名すらない頃のキカイの名前だよ」
「ロボットってやつですか?」
「ははは、ロボット…うーん、はは、ロボットねえ…」
 ふと、立ち上がる。そして、黙々と茶を飲んでいたリフターの肩に手を置く。
「ねえ、リフター君。頼みがあるのだが…?」
「はい。なんでしょう?」
「私を殺してくれないか? これは命令や指令、あるいは指示として優先的に聞いてもらいたい」

「なるべくむごたらしく、が望みかな。君らしく…うむ、力任せに撲殺とかかね? 派手に頼むよ」
 ぽかん、と口を開けたまま…手にしていた茶碗を落してしまうリフター。もちろん、家事用らしきロボット?がやってきて破片や茶を即座に回収していく。
「な、な、なに、を、お、お、おっしゃって…」
「無理かね? これほど頼んでも?」
『…少なくとも誰かに頼んでる態度じゃないですね』
「…まったくこの人は相変わらずだよ」
「む、むり、に、き、きき決まってます、そんな、そんな大それた、こと…」
 くるりと芝居ががった仕草でアンヘラに向き直る。
「お嬢さん。これが今のミメットだよ。長い時間かけて蓄積され、継承されて発展させていった様々な知識や常識や技術。それらは各種作業を円滑に行うための要素となっているのだ。こういったセーフティもその中の一つに含まれているのだよ」

「じゃ、じゃあ…そのセシル?なら何のためらいもなくお父様を殺せる、のですか…?」
「方法と意味をしっかり示すことができれば…。ふむ。セシルは商業ベースに乗せることを目的に作っていたからね。特にヒトやヒトの所有物に対してのセーフティは万全に施す必要があったから…まあ、やる気は見せるけどなんだかんだ言って実行には移さない、というところかね」


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