「…は？」
…何を言ってるんだこの子は、という表情のアンヘラ。
『わたしとポルカ兄さまはここで生まれたんですよ？ はい。この基板になる前の記憶は一切ありませんが…目覚めた時のことははっきり覚えています。たしか二階に作業場があって、そこで生まれたんですよね？』
「ああ、そうだろうね。今はほとんど彼らの整備に使っているが…うん、以前にはそういった作業もしていたはずだ」
『ね？ そうでしょ？ ポルカ兄さまのことまではちょっと、分かりませんが、わたしは…って、あれ？ ジルバ様？ どうかしました？』
明らかに落ち込んでアタマ抱えそうな…ジルバ。
「あーー…そこまでしゃべっちゃうか…」
『え？ あの、わたし…また何かヘンなこと言っちゃいました？』
「いや、まあ…その、なんだ、そのうちに分かることではあるんだけど…」
何度かアタマかきむしってから、アンヘラに向き直る。
「…アンヘラさん」
「は、はい」
「これから話すことはあまりよそでは話して欲しくはないんですが…」
「はあ…」
「なんだ。お前が第三世代ミメットだ、ということか？ 前の私もなかなか凝ったことを考えたものだな、まったく」
「……！」
一瞬ジルバの顔を見て、そして…今度はカート・クレイマンの顔を見て…？
「……？」
「知らせてなかったのか？ 大事なことじゃないか？ ん？」
「…え…えっと…」
次は天井を見て…？
『アンヘラさん…？』
戸惑っているリフターの顔を見て…？ そしてやはり困った顔になっているジルバを見て…？
「ご、ごめんなさい。何を言ってるのか、ちょっと理解が…えっと…」
「やっぱり説明不足はいかんなあ、ジルバ」
「さてお嬢さん。魂ナンバー000のことはさっき説明した通り、これは分かるだろう？」
「は、はあ」
「商業用の001は分割・培養して今や多種多様なミメットの魂となっている。では000は？ ということでな。何か他に活用できないか？ と考えたのが前の私なのだよ」
「…その、えっと…まえの…わたし？」
「この私の魂も意思転移によって代々受け継がれてきたものなのだよ。肉体は初代の身体を培養を繰り返すことでここまで保ってこれた。もちろん100%ではないがね」
「これまでのミメットは、その部位を金属部品から樹脂製へと置き換わっていったとしても…やはりかなりの重量を有してしまう。そのため無重量の軌道上が主な活躍の場だった。昨今は新物質など相当の軽量化が進んだとは言え…まだまだだ。その辺を有機物質などでうまく補っていったのが…第三世代ミメットの素体、というわけだ。その技術で私の肉体の維持技術も格段に進歩した。継承の際にいくらかの記憶のクラックなんかが起きるのは…まあ、仕方がない」
「前の私…奴はカート・クレイマンをいじってクレイ・カートマンを名乗ってな。000を培養して活用すべく第三世代ミメットを作って会社を興すことを思い付いた。その社員の一人が…ジルバだよ。おおっと、もちろん彼だけしかいない、というわけではなく…」
「ちょっと、ちょっと待ってください。つまり…今、目の前にいるジルバさんは…」
どこからどう見ても人間そのものである。なのだが。
「生命活動上の人間との差異は…ほとんどないはずだがしかし人間と呼んでいいわけではない…といったところか？」
「一応と言うか、まあ、たしかに人間というくくりには当てはまりませんね。ついでに言うと登録ミメットではないので、ナンバーも何もありません」
「ただ『ジルバ』とだけ呼称されている。そしてサルサとポルカはその時の準備実験の時に転移された意思、ということになる」
『私は何も覚えてませんけどね』
「そうだ、ジルバ。これをマズルカに送ってやるといい。ポルカの意思を強制的に叩き起こす一種の起爆剤みたいなものだ。あっちにはサルサの分体もいるんだろう？ それならうまくやるだろうさ」
「言い方がなんか微妙に不安ですけど…サルサ、送信できるかい？」
『できなくはないですけど、会社に戻ってからでないとさすがに…』
「それなら二階にある発信機を使うか。あれなら高出力だから問題なく第二衛星近くにも届く。何しろ何度も送っているんだからな、あははは」
「笑いごとじゃないですよ、ったく…」
