TheRootSeller 外伝 1 「二人の未熟者」　[17]

「おーーい！　フランちゃん？　ハウズ？　どこだーー？」
「フランさーん！　ハウズ兄ちゃんー？　どこー？」
　…どこかから聞こえて来るこの声は…。

「お？　そこかー？　フランちゃんー！　ハウズー！」
「あ、見ーつけた！　お兄ちゃん、こっち、こっち！」
　リッツがぐるぐると手にしているランプを振り回すのが見える。
「おいおい、心配させんなよな…はは」
　アシをかけわけてロッツがやって来た。そこで見たのは…地面にぺたん、と座ったままのフラニチカと彼女に背を向けたまま突っ立っているハウズ。二人とも顔が赤い。フラニチカはリッツが何か話しかけても、うなずくだけで顔を上げようとしない。
　…なんだかなあ…この二人。
　内心笑いがこみあげて来て…なんとか抑えたロッツだった。
　…そのまま口に出しちまえば簡単なのに。

　今の月明かりは…優しく微笑んでいるように四人を照らしている、そんなノニイ平原。

「…なんだよ」
　息を整えるように何度か咳払いするハウズ。リッツはともかく、ロッツはにやにやしている。
「マルガレーテ婆さんに聞いたんだよ。フランちゃんが一人で探してるって言うからさ、手伝いに行こうかと思ってよ」
「ったく…余計なことばかりしやがる…」
　そう言いながら怒っているような、それでもほっとしたような…複雑な表情だ。

「さ、とにかく探そうぜ。…お、そうだ。フランちゃん、うちの店のパンがあるから食べてくれよ。晩飯も食べてないんだろ？　ハウズ、探そうぜ。そのなんとか草」
「…スプーヤ草だろ」
「リッツもさがすからね！　フランさんは座っててよ」
　と強引にケウェリアシをおしのけると無理やり座らされる。…ちょっとちくちくするけど…。
「あの、みんな…」
　渡されたバスケットからは、ほわん、といい匂いがする。
「…ありがとう…」

「いいって、いいって。そんなこと気にするなって。な、ハウズ」
「…ああ」
「がんばってさがすから！　…そのスプーン草」
「スプーヤ草だ…」
　呆れ果てたハウズの低い声。そんな声は耳に入っていないのか、リッツはアシの中を走って行く。
「おい待てよ…！　何がいるか分からないんだぜ…ハウズ、行くぜ！」
「おう…」
　ちらりとフラニチカに視線を残してハウズも、二人を追って平原に消えていく。

　一人残されたフラニチカ。大分落ち着いてきてはいる。
　ハウズが何を言いたかったのかは気になるけど。
　それでも心の奥底から湧き出した安堵感が全身を心地よく満たしていく。
　…そっか…私、一人じゃないんだ…。

　それでも気になることに思い当たった。こう考えられるあたり、いつもの彼女に戻っているのだろう。
「あ、そうだ。これを渡しておかないと…」
　バスケットを置いて腰の袋を探る。ピレスムの花のエキス。これがないと虫がすごいことになる。特にリッツは大変なことになりそうだ。
　小さなビンを取り出して立ち上がる。
　…誰かいないかな…。
　と見回して…何気なく自分が座っていた辺りを見た。

「あ！　……！　これ…スプーヤ草…？」
　リッツがおしのけたケウェリアシ。ちょうど自分の背中の後ろあたり。
　五、六本ほどまとまって、白い月明かりの下…恥ずかしそうに咲いている薄紫の花があった。